小寒む(2)
○店の前(朝)
店の雨戸をはずして、横の路地へしまう孝。
「兄さん」と清二(27)が来る。サラリーマン風である。
孝「よお」
清二「まだ、お母さん?」
孝「うん」
不機嫌に戸を運んで行く。清二ちょっと見ていて中へ入る。
○店
「お早よう」奥を伺うように言って清二歩いて行く。
○茶の間
優子「(食卓をかたづけながら)清二兄さん?」
清二「(顔を出し)昨日来たんだってな」
優子「うん。御飯すんだ?」
清二「(のぞいて)普通の飯か」
優子「三日お雑煮だもの、もう倦きたって」
清二「俺は元旦に此処で食べたっきりだからな」
優子「鱈昆布のお雑煮?」
清二「ああ、お袋特製のな(と炬燵へはいる)」
優子「心当り、大体みんな当たったのよ」
清二「外へ泊るのお袋嫌いだもんな」
優子「好きも嫌いも、泊れるところなんてないもの、お母さん」
清二「親戚は、ないし、俺のとこかお前のとこぐらいだな」
優子「私のとこは遠いもの」
清二「俺のとこは、掃除と洗濯に来たように、なっちゃうしな」
初子「(廊下をへだてた台所から来て)ああ清ちゃん(疲れた顔をしている)」
清二「お早ようございます。」
初子「すいません、今日から会社でしょう、」
清二「いや、どうせたいした仕事にならないから」
初子「来て貰っても、どうしていヽか分らないんだけど」
清二「警察へは、すんでるんですか?」
初子「やっぱり届けた方がいヽかしら」
清二「他の者ならともかく、お袋が黙って外へ泊るなんて考えられないからな」
初子「じゃあそれ、お願いしようかしら、」
優子「そんな事なら、私行くわ。兄さん御用始め、休まない方がいいんじゃないの」
清二「そりゃその方がいヽけど―もうちょっと事情を聞きたいな」
優子「事情も何もないのよ」
初子「―」
清二「(困って)そりゃまあそうだろうけど」
初子「(突然、顔をおおって泣く)」
優子「お姉さん、昨日から疲れてるのよ、」
清二「いや、僕は、別に、そんな意味で言った訳じゃないんですよ」
― WIPE―
○店の前
初子と孝がガタガタ雨戸を閉めている。「どうしたの」と優子が顔を出す。
孝「余計な事言う奴がいるよ(乱暴に優子の前に雨戸をたてる)」
優子「(見えない孝に)なんだって?」
孝「(雨戸をすべらして顔を出し)親が何処か行っちゃったのによく金儲けが出来るだとさ」
初子「探しにもいかないで、一家揃って家にいるって」
優子「スーパーのお婆さん?」
孝「いいさ向うがその気なら、こっちだって、いつか全商品1割引をぶつけてやるから」
初子「ねえ、一枚だけ開けとく?」
孝「閉めちゃえ、閉めちゃえ、また何言って回るか分りゃしない(と自分は中へ入る)」
優子「警察から今電話があったわ」
孝「なんだって?」
優子「都内の交通事故にそれらしい人ないって」
雨戸、全部しめられる。
孝「探しに行かないんじゃないよ。探しようがないんだ(と茶の間の方へ)」
初子「(雨戸のくぐり戸から入って来て)お向かいの養子、さっきから、こっちばかり見てる」
優子「まだ世間ってうるさいのね」
初子「自分達が親を粗末にしてるから、私達も同じだろうって思うのよ、とんだ誤解だわ」
○茶の間
孝「(寝ころがって)まるで台風だ。雨戸閉めて天井見てちゃ」
初子「お母さんにこにこ笑ってたわよ。昨日の朝だって、白菜がほんとにうまくつかったって、にこにこしてたわよ」
孝「―」
初子「優子さん、あなた、どう思ってるか知らないけど私天地神明に誓って、やましいことないつもりよ」
優子「そりゃ信じてますけど」
孝「ますけど、なんだ?」
優子「ううん信じてます」
孝「どっかないかなあ、もっと探すとこ」
優子「一つあることは、あるんだけど」
孝「どこ(起き上がる)」
優子「あんまりあてにならないけど」
孝「いいよ何処だい?」
邦雄が入って来て「あれ、休みにして温泉にでも行くの」
孝「ふざけんじゃないよ」
邦雄「スーパーのばばあ、うるさいのさ」
孝「お前にもなんか言ったの?」
邦雄「子供は親に似るから、この子も親不幸だろうだって」
孝「畜生、あのばばあ(立上る)」
初子「あんた」
小寒む-3-に続く。