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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

山田ファンの始まり(21)政治と大衆

「山田ファンの始まり(21)政治と大衆

 

 

「パンとあこがれ」(1969年TBS)は相馬綾と相馬竜蔵の一代記といった内容のテレビ小説です。

時代は太平洋戦争末期で、二人の息子、考次は大学に通っていますが、学校から非合法な政治活動をしているらしいと注意を受けています。政治活動と言っても使い走り程度で、ただ反抗的気分だけをやたらたぎらせているという孝次です。

 

綾(68)と竜蔵(73)は考次の考え方を理解しようとしますが、考次は親の理解など頭からあてにせず、叱るか許すか判断するまで家を出るなという綾の命令をはねつけて、飛び出して行きます。

それから数日して考次はカフェの女給を連れて、裏からこっそり自分の部屋に帰って来ます。物音で気づいた二人は部屋に行きます。

考次は、二人の来る足音に気付き女給を押し入れに隠します。

竜蔵は部屋に入るなり叱ります。

「俺はお前をぶん殴りたい。だがな、ぶん殴るまえにな、俺の気持ちを話す」
考次は平然と「いいです。ぶん殴ったって」と挑発します。
「考次」と綾はたしなめます。

竜蔵は言います。
「お前がただぐれているだけなら、ぶん殴るだけで俺は治す。しかし、お前には信じてるものがあるようだ。革命というものがな。・・お母さんほどじゃないが、2冊ばかり本を(考次の持っていた書物を)読んだ。大体お前の考えは理解したつもりだ」

孝次は冷笑し「なんでも理解できちゃうんですね。でも違いますよ。理解した気になっているだけです」と言います。
「それがどうしてわかる」
考次は「じゃあ、これが理解できますか?」と突然立ち上がり踊り出します。
「カッポレ、カッポレ甘茶でカッポレ」
愕然とする二人。
「それご覧なさい。なんでも理解できるというのは思い上がりです。」と勝ち誇る。

竜蔵はひるまず「お父さんの話を聞け!お前はな、自分の信じとる思想を正しいと思ってる」と言います。
「当たり前じゃありませんか」
「だからそれはいい。正しくないとは言わん。だがな、お父さんはこう思っている。自分のしとることが、ことによったら間違えているのかも知れないという反省のない思想は、思想ではなくて宗教だ」
「そんな考えで徹底した戦いは出来ません。相手は正しいかも知れないと思いながら革命が出来ると思いますか」
「なら、革命なんてしなきゃいい」
「日本はこのままではどうなると思いますか?」

竜蔵は考えて「わからん」と言います。
「なら説教なんてよせばいいんだ」
「革命というものは大きな犠牲を強いるものだということはよく分かっとるんだ」
「犠牲は覚悟の上です」
「お父さんはな、どんな思想でも、人を死に追いやってまで実現する値打ちはないと思うんだ、人間にとって大切なのは、人間であって思想ではない」
「生きてりゃいいってもんじゃないでしょう」
「むろんだ。しかしな、人を犠牲にしてまで自分の誇りを通そうとするのは間違いだ」

孝次は「議論しても無駄ですね」と見放します。
「何故そういう言い方をする」
「甘っちょろくて聞いちゃいられないからだよ」

綾が言います。
「孝次。あたしたちの考えが甘いなら、何処が甘いのかはっきりおっしゃい。まともに話し合おうともしないで、自分だけが正しいと思っているお前は甘くはないんですか」
「自分が正しいと思わなきゃ、なんにもできはしません」
「でもね、もしかしたら、相手の考えにも正しいことがあるんじゃないかと思わなくてもいいの?」
「正しいはずないじゃありませんか!」
「・・母さんはね、一度でいいから、お前が自分の考えを間違ってるんじゃないかって立ち止まってくれたらいいと思う。そうでないとお前が段々に残酷な人間になっていくような気がするの。それがお母さんには怖いの」
「反省なんかしてたら、たちまち押しつぶされてしまうんです」
「相手が人間らしくないから自分も人間らしくなくなるというなら、ただ犠牲が増えていくだけです。何が人間らしいのか、どうすることが人にとっても自分にとっても一番人間らしいことなのか、いつもその反省をすることが大切だと思うんだけど」
「こんなこと言ってる人間は、結局何もしないで押し流されてしまうんです。綺麗ごとじゃすまないんです。大した失敗もしない、酒も飲まない、浮気もしないお父さんと幸せに暮らしてきたお母さんには、現実が修身の教科書くらいにしか見えないんです」
「お前がそう言うのはよく分かるわ」

「あーあ、なんだってわかっちゃうんだ。でも本当はわかっちゃいないんだ。というのは言ったでしょ。いいですか?お父さんもお母さんもこの部屋にもう一人ひとがいるなんて想像もしないでしょ。」
「この部屋に?」
「息子が女を引き入れているなんて想像もしなかったでしょ」

愕然とする二人の前で押入れを開ける。女、顔を隠す。
「ごめんよ。出ておいでよ。つい、かっとしちゃったんだ、親父もおふくろもあんまり人がいいんでね」

「考次!」と怒る竜蔵。
「なんですか」
「お前と俺とは分かりあえん。出てけ!」
「そうくるだろうと思いましたよ。手に負えない者は追っ払えば思いがけない現実にぶつからずに済みますからね」
「人のことを言うのはよしなさい」と綾が叱ります。
カフェの女給が謝ります。
「奥様、私が悪いんです」
「よけいなこと言わなくていいんだ。どうして君が悪いんだ」と孝次は女給をかばい「さあ行こう」と部屋を出て行きます。
「さよなら母さん」

 

 

これは戦時中の共産主義との相克を描いていますが、発表された1969年は70年安保で騒然としていて、学生運動は世界的なムーブメントとなっていました。そういう政治の季節が反映されたシーンといえたでしょう。

 

 

 

山田ファンの始まり(22)70年代学園紛争」に続く。

 

 

2021.8.21

 

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