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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

秋の駅(後編)

 

「秋の駅」

1993年フジテレビ単発ドラマ。

福島テレビ開局三十周年記念番組。

 

 

このドラマには中原ひとみが出演しています。

古くは「女と刀」「真夜中の匂い」、最近では「時は立ち止まらない」など山田ドラマでは印象深い女優。

でもこのドラマではほとんど端役です。朝の駅に現れて、田中好子の子供と一言二言会話して、列車に乗って行ってしまう役です。綺麗な老婦人で、どんな裕福な暮らしかと思いきや、夫といるのに耐えられなくて、毎日のように外出しているという悲しい人物。

         

 

そんな女性の話を田中好子はして、結婚には夢が持てないと言います。田中好子の夫は麻薬と傷害で刑務所に入っています。やっと離婚できたけど、苦労が身に染みているのです。

 

 

のどかな田舎だが、中原ひとみのような暗部を抱えている人がいる。

田中好子も同様、再婚を決意するほどの希望は見出せずにいる。

嫁不足の男たち。

死のうとしている老夫婦。

 

そういう人々を結びつけるのは、何故か逃亡中のバングラデシュ人。

逃げるバングラデシュ人を追う男たち。

不法滞在の外国人を捕まえるという「正義」を手に入れた興奮。ここぞとばかりにエネルギーを発散し、バングラデシュ人を追い詰めリンチを始めてしまう。

 

ブラジル人の彼女を連れて戻ってきた老夫婦はリンチの惨状に驚きます。

お爺さんは叫びます。

「この人が何をした!この人が何をしたか!!」とつかみかかっていきます。

若者たちはハッと我に返り暴行の手を止めます。

個人的なむしゃくしゃを「正義」に重ねていたことに気づきます。これ以上暴力をふるっていたら犯罪者になるところだった。

 

老夫婦はこういう騒動の中で、希死念慮なんてふっ飛んでしまいます。

行き詰まった若者たちと、失意の老夫婦と、逃亡者が関わる事により、化学反応(?)が起き、お互いが救済されることになります。
     

そんな姿が田中好子はじめ、駅の人々にある感銘をあたえます。

マイナスは貴重な体験だと常々言っている、山田さん。それぞれのマイナスが絡み合って、ある希望を見出すのです。

「この旅行が、こんな風になるなんて思ってもみなかった、人生分からんねえ」と、感極まって泣くお爺さん。つられて泣くお婆さん。

 

 


そうやって会津柳津駅の一日は暮れて行きます。

布施博の勤務は朝までです。朝になればこの駅の勤務は終わりです。だから一世一代の決心で求婚したのに見事に撃沈。
    

それでも布施博は田中好子にもう一度アプローチします。「絶対に幸せにする」と。

田中好子は「前の亭主も同じこと言ったよ」と言います。

「おれは裏切んねえ、いつまでも幸せにしてみせる」

「早い話、子供が生まれたらどうすんの?」

「子供?」

「二人とも公平に大事にできる?」

「そんなこと、出来るにきまってる」

「口ではどうでも・・」

「口ではねえ。ほんとにそうする」

「人間、言った通りにはいかネエのよ。そういうもんじゃネエの」

「だって・・これからずっと一人で、あきらめたように、一生終わっていいんだべか。一度失敗したからってなんだべ」布施博は食い下がります。

 

田中好子は突然「浮気しよ」と言います。

「あンたはいい人だもん、浮気ならしたい。本気は困ンだ、人の心は変わっから。今度郡山さ行こう。ラブホテルさ、見当つけといて。浮気しよ。結婚はごめんだわ」

布施博は怒ります。

「美代さんは、そだ人でねえ」

「そういう人なのよ」

「嘘だ!」

「勝手にイメージ作んネエで」

「あんたは捨て鉢になってる。その歳で人生見切りつけてどうする」

「見切りなんかつけネエよ。私はただ結婚にこりごりしてるだけ」

 

二人の話は平行線です。

 

 

 

 

最終便が出て行き、独りで夜の業務をこなす布施博。

もう特別なことがない限り会津柳津駅に来ることはない。

KIOSKの閉められたシャッターを見つめます。もう遠くから田中好子の姿を見ることもできないのです。

長い夜を布施博は過ごします。

       

 

 

やがて朝靄が駅を包むころ、一番電車を迎える準備を始めます。

そこへ一台の小さな車がやって来ます。

田中好子の車です。KIOSKを開けるには早すぎる時間。

忘れ物しちゃってと田中好子は言いますが、それは言い訳です。田中好子は揺れているのです。布施博にもそれが分かります。

「私なんか、しょいこんでいいの?」と聞く田中好子。

「ええよ」

「子供が一緒だよ」

「あたり前だ」

「前の亭主が出て来て、なんか言ってくるかもしんないし」

「未練・・あっか?」

「ねえ」

「だら、問題ねえ」

「なして、簡単に言えンの?」

「美代さんが好きだから」

ストレートな言葉に黙ってしまう田中好子。

かろうじて「てエした殺し文句だ」と苦笑します。


「実は、俺も懲りてる。おなごじゃ痛い目にあってる。4年ばっか前になっけど、ずっとどいつもこいつもおなごは怖いような気がして・・」

「私も怖いよ」

「ああ。そだこと言ったら、俺も怖い。みんな、どっかおかしいとこ持ってんだ。だからって独りのほうがええか?俺は、そだに強くねえ。美代さんと一緒にいてえ」

 

揺れる田中好子。

強く見つめて「ええな」と布施博は言います。

田中好子は頷きます。

一緒になろうと思います。不安はもちろんある。でも、田中好子は二人の道を歩もうと決心します。二人は抱き合います。

 

窓の外がどんどん明るくなっていきます。

小さな駅が朝の光に包まれ、柳津の一日が始まります。

農作業にいそしむ益岡徹。

巡回する村田雄浩。

だんご屋、家具店、家業を手伝う若者たち。

紅葉の中を電車がやって来ます。

      

 

 

 

 

 

2020101日の朝日新聞夕刊に、元フジテレビプロデューサー山田良明さんのインタビューが掲載されました。

そこに山田さんとの出会いが語られています。

 

 

「高視聴率に高揚する一方、心の中では満たされないものがあった。そんな中、出会ったのが脚本家の山田太一さんだった。『岸辺のアルバム』や『ふぞろいの林檎(りんご)たち』など日本を代表するストーリーテラーであこがれの存在。その太一さんに脚本をお願いして企画したのが『秋の駅』(93年放送)だった。

 92年夏ごろ、東京都内の喫茶店で打ち合わせのため初めて会った。あいさつを交わしたあと、太一さんはいきなり『ドラマって『how to live』(いかに生きるか)ですよね』と語りかけた。

 

一瞬で山田太一さんに引き込まれました。私はトレンディードラマをプロデュースしながら、視聴者の心に深く届くドラマを作りたいと模索してきたので、『山田さんもそう思って書いているんだ、それでいいんだ』と、ドラマ作りの姿勢を再確認できました」

 

と言っておられます。



2020.10.5 

 

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