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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

わしも介護をやってみた!(16)片付けたいの。

八月六日(金)。

フロアの中で何よりも気を付けなければならないのは「立ち上がり」である。

精神的に不穏な人、妄想の入っている人は突然立ち上がる。そしておぼつかぬ歩行で転倒する。

老人にとって転倒は恐るべきことである。老人は簡単に骨折する。そして一度寝たきりになると回復は難しい。いちどきに弱って行き他の病気や褥瘡を併発する。寝たきり老人の第一歩が転倒等により臥床生活に入ることなのである。

 


「立ち上がり」後の転倒予防のために職員は最大のエネルギーを使う。ガタッと椅子を動かす音がしたら即座に職員は駆けつける。

しかし「立ち上がり」は妄想が入っている方ばかりがするわけではない。当然頭がクリアーな方がおりADLにさしたる問題のない方もいらっしゃるのであり、その場の必要に応じて動こうとするのである。

 

例えば新聞や雑誌を読みたいので置いてある場所まで歩く時、トイレに行く時、バックなどの荷物をロッカーにとりに行く時、などなど。でも職員はトイレを別として常にご老人を立ちあがらせない。欲しいものをお聞きし自分達が取りに行く。

 



老人の動くことの中でもっとも頻度の高いのが、食事後に食器を下げようとすることである。特にお婆さんはこれをやりたがる。

センターのサービスは結局上げ膳据え膳状態に老人を追い込んでいるのだが、行楽地の旅館の接待と殆ど変わりがない。違うのは「歓楽」のための接待と「健康」のための接待という違いだけである。

 

長年主婦としてやってきたお婆ちゃんの感受性はその上げ膳据え膳状態に耐えられない。お茶碗くらい下げなきゃと申し訳ないと思ってしまう。

でも職員は絶対させない。人情としてはとても良く分かるし、出来る人にはやってもらったほうが良いとも思う。自立支援という視点に立てばそのほうが良いと私は思う。でもセンターはさせない。事故が怖いから。

 




介護の問題と自立支援の問題は簡単にラインが引けない問題だが、結局事故が起きた時の責任問題があるために、利用者のためにではなく責任問題のために過剰に老人を保護しているような部分がセンターにはある。


もちろん責任問題だけではなく健康を慮っての過保護なのだが、お茶碗を片付けたい、出来ることなら洗いたいというお年寄りの願いが叶うためには多くのハードルがあると思う。

 












17)介護なんて  に続く。

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