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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

山田ファンの始まり(6)家族の秘密

 

「山田ファンの始まり(6家族の秘密

 

 

 

山田さんと一緒に仕事をしていると、時折り訪問してお喋りしている時とは違う関係に変化して行きました。自然にうちとけて行きました。

 

私はいつも喫茶店で、一人孤独に案を練るのですが、よっぽど変な顔して思案していたらしく、ウエイトレスに「大丈夫ですか?」なんて言われたことがありました。

私の自意識過剰を刺激する出来事で、そんなことがあって、参りました、なんて山田さんに愚痴ったら、山田さんは、あ、いいなあ、ぼくだってウエイトレスに声かけてもらいたいよ、いいなあ、なんてことを言い始めて、何を言ってるんですか、そんな意味で言ったんじゃないですよなんて言っても、山田さん笑っちゃって、まあ、からかっていたわけですが、そんな軽口をたたきあえるような関係に変化して行きました。

 

 

また、山田さんは自分の裏の顔も見せてくれるようになりました。

連続ドラマ放送後に電話をすると、もう見ないでくれ、引き伸ばすのに苦労してるんだ、なんて愚痴をこぼされることもありました。昔の連続ドラマって14回とか15回とかあって長丁場でした。

 

でもだからと言って間延びしたドラマになっているかというとそういうことはなく、びっしり詰まっています。

山田さんはそういう意識で書いているかも知れないけど、出来上がったものは見事なドラマになっていて、土壇場の力というか、才能というか、凄いなと思いました。

同じもの書きとして、チクショウ!と思いました。負けるもんかと思いました。

 

 

 

「カリメロ」で最初に書いたのは「呪われたママ」でした。

学校の作文でお母さんについて書くことになったカリメロは、お母さんを観察します。すると朝から晩まで働き詰めで働いていることが分かります。

どうしてそんなに働くのだろう?

素朴な疑問が湧いてきます。いつも「旅行したいわ」とか言ってるから、行けばいいのにと言います。でも母は「あら、だったらカリメロのご飯は誰が作るの?誰がお洗濯するの?」と言います。

こんなに懸命に働いているのは、みんなみんな家族のため、とりわけカリメロ、あなたのためなのよ。お母さんはそれが嬉しいの。そう言われるカリメロです。

 

その夜カリメロは夢を見ます。

深夜、地下室から不審な音がするのに気づき、おっかなびっくり行ってみると、真っ暗な地下室から母の苦しそうな声が聞こえます。

「ああ、肩が痛いよ。腰が痛いよ」そう言いながら、母がハンマーで何かを砕いています。

カリメロが目をこらして見ると、それは骸骨です。母の周りはおびただしい数の骨が散乱しています。驚いたカリメロは物音をたててしまいます。

「誰だい?」と振り返った母は老婆に変わっています。

「カリメロかい。ああ、お腹が減ったよ。ひもじいよ。お前がたくさん食べるから、私はひもじくて仕方ないよ」と嘆きます。

カリメロは逃げようとしますが逃げられません。

母は「カリメロ、お前を食べさせておくれ!」と襲いかかります。

 

そんな夢をみます。

この夢がクライマックスです。

子どもが母親を対象化する、それを子供向きにホラー仕立てで書こうと思ったのでした。

山田さんは、私の構想を楽しそうにメモしていました。

 

 

次に書いたのが「ジャジャ・ジャン・チャ」でした。

悪ガキ3人組が「今日はパパカブだなあ」とか「いやあ、ポカポカポッポだよ」なんて意味不明のことを言っています。

カリメロが「何を言ってるの?」と質問します。すると悪ガキは「暗号ごっこをしてるんだ」と言います。自分たちで暗号を作り、楽しんでいるのです。

 

カリメロは「ぼくも仲間に入れて」と言いますが、入れてくれません。仲間外れです。懇願するカリメロに悪ガキは言います。「仲間になりたければ、誰にも言っていない秘密を俺たちに言うんだ。言えるか?」と言います。

カリメロは仲間に入りたくて「言う!」と言います。

「パパにもママにも言っていない秘密だぞ、言えるか?」

「言える!」

と言ってから、はて?とカリメロは考え込んでしまいます。悪ガキが「言え!言え!」と煽りますが、言えません。

「秘密があるだろう?」

カリメロは首をかしげ「ないみたい」と言います。

悪ガキたちは呆れます。「こいつ今でもパパやママにぺちゃぺちゃ喋ってるんだ」「今でもオムツしてるんじゃないか」と笑って悪ガキたちは行ってしまいます。

 

 

カリメロは口惜しくて秘密を作るぞ!と決心します。

家に帰ると「秘密の箱」を作りいくつも秘密を入れます。ガラクタだけど。

そこへ母親がカリメロの部屋に入って来ます。慌てたカリメロは母を追い出します。驚く母にカリメロは「ここは秘密の部屋だ!入っちゃダメ!」と扉をバタンと閉めます。

唖然とした母は「カリメロ!」と叱ります。

カリメロは「まだいるの!行ってよ!」と叫びます。

「まあ~~!」と怒った母は行ってしまいます。

こうやって秘密を持とうとする子どもと母の戦いが始まります。

その戦いは、帰宅したお父さんをビックリさせます。大丈夫か?

 

漫画的に滑稽に騒動を描き、やっと秘密を作ったカリメロは悪ガキたちに会いに行きます。でも悪ガキたちは喧嘩をしていて、暗号ごっこどころではなくなっています。秘密をせっかく作ったのにカリメロはガッカリです。

 

さて、景気よく喧嘩したカリメロは、母に対して引っ込みがつきません。やはり仲直りしたい。母に「秘密を見ていいよ」なんて「秘密の箱」を差し出しますが、「あ~~らとんでもない」と母は受け付けません。

淋しくなってショボショボと自室に帰ろうとすると、母がそっと後ろから抱きしめて「冗談よ」と言って笑います。カリメロも笑って、一件落着、おしまいとなります。

 

これを読んで、山田さんは最後にお父さん出そうよと言います。

二人が笑っているところに、お父さんが帰ってくるんだよ。そして、二人に「おや、今日はずいぶん仲がいいなあ」って言うんだよ。するとカリメロと母が笑って「うん、そうだよ」と言い、二人は「秘密だよ」ってお父さんに返すんだよ。

なるほど!と私は思いました。

ひねりが効いてる。個々が秘密を持つのは仕方ないことだけど、それが父、母、子の秘密と、2対1の秘密と、二重三重の意味となって広がっている。さすがだなあと思いました。

 

そんな感じで「カリメロ」は進みました。ところが私は「カリメロ」どころではなくなってしまいます。

信じられないかも知れませんが、私は命を狙われて逃げ回ることになり、原稿を書くどころではなくなるのです。

 

 

 

 

 

 

 

山田ファンの始まり(7)修羅場」に続く。

 

 

 

 

 

2021.5.10
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