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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

わしも介護をやってみた!(19) 二回目のミーティング。

 

九月十三日(月)。

七月九日に行われたミーティングの続きが今日やっと行われた。一ヵ月後に再びという約束だったのだが、諸般の事情で二ヵ月後の今日になった。だから一時期もうミーティングはなく、管理側はしらばっくれるのではないかという噂も流れた。しかしおそらく古株からの突き上げがあったのであろう、今日という運びとなったのである。

 

前回、黒岩氏が傲慢と言われる人にしてはまったく発言がなかったことについて、七十代の男性非常勤職員である馬飼野(まがいの)さんのサジェッションがあったせいではないかと書いたが、どうも黒岩氏はもともとこういう場では発言しない人であるらしい。でも現実の仕事では有無を言わせぬ独断が多いということで非常勤女性たちは困り果てている。

 

話し合いはお昼からの仕事の詳細から始まった。
このセンターは職員と利用者さんが一緒に昼食をとるというシステムなのだが、その際の利用者さんへの語りかけを行い、自分だけさっさと食べることがないようにと言われる。結局一部の職員だけが話題を持ち込んでいるような状態なので、各々が例え不得手でも持ち込むように努力して欲しいと古株パートさんから要望が出た。

 

それは昼食の時に限らず、フロアの中で利用者さんがポツンとひとりぽっちになってしまわれないように、常にひとり一人の職員がマンツーマンではなく、最低三人の利用者さんの相手をするよう心がけることが必要ですと馬飼野さんが言う。

 

成る程と思う。この仕事は基本的にエンターテイメントなのだ。徹底的な楽しさの提供。健康を損なわないという「氷山の下」の気くばりは当たり前として、「氷山の一角」の世界で我々がなすことは、娯楽の提供なのだと思う。

 

とは言え、話題の少ない喋り下手の自分には耳が痛い。

まあ、下手は下手なりにやっていくしかない。駄目だと思ってやらないということがもっともいけないことなのだ。

 

その日のミーティングは富士見さんを始めとする管理者側が終始古株さんの御意見をお聞きするという形で進んだ。まあ、結局現場の実際を知っているのは新米管理者ではなく、古株非常勤者ということなのだ。

そしてそのやり方を一つひとつ聞くにつれ、以前の職場の体制が如何に細やかな配慮で成り立っていたかという事が分かって来る。以前の管理者とその非常勤スタッフは、センターの所長との確執で去って行ったという噂だが、その所長ですら「完璧な介護だ」と舌をまくほどの仕事をしていたということである。

 

話し合いは二時間半に及んだ。

この日は「宮口精二の如き剣の達人」の女性は用事があって参加していなかったのだが、この日のミーティングの概要を後日私から聞き、「そんなことばっかり話してたって駄目よ」と焦れた。

「介護の基本を確認しなきゃ。黒岩のような、まったく思いやりのない人をまず教育しなきゃ」と更に言った。

 

そう介護の思想とでも言うべき部分を語る必要はある。

細々とした現実の作業のマニュアル化だけでは限界があり、当然不測の事態の応用という問題が出て来る。応用が適切に出来るためにはその行為の根底にある理念、思想が問題になって来る。

この仕事は常に優先順位を考えながらやっているところがあるが、優先順位こそある共通の理念がないとまずいと思える。

 

この日はたくさんの話が出て大変勉強になったが、ミーティングの内容とは別のところで、五十嵐氏(三十三歳イケメン)の発言が気になった。彼は終業時のミーティングでも殆ど発言しないのだが、発言すると必ずピントのずれたことを言って私を戸惑わせる。そういうことがこの時もあったのである。

 

女性たちにとても評判の悪い五十嵐氏だが、それは決して女性たちが「黒岩の仲間だ」と感情的に嫌っているだけではないことが最近分かって来た私である。彼と仕事をしていると優先順位が違うのである。何故今そんなことするの?ということが多すぎる。連携プレーがなかなかとれないのである。

 

この日も「女性の入浴時間があと何分で終るか事前に男性側に伝えて欲しい」という発言を彼はした。突然「男性入浴OKでーす」と言われても慌てるというのだ。これを聞いて私は呆れた。後日馬飼野さんと話をしたら馬飼野さんも呆れたと言った。

そんなことが読めてないのかという驚きである。女性利用者の入浴介助に入っている女性職員は五六名である。そしてその五六名は最初から最後まで入浴介助をしている訳ではない。

つまり女性の入浴者があと数名になったところで、女性職員は昼食の配膳もあるので、二三人フロアに戻るのである。つまりその動きを見ていれば、女性が出て来る姿を見ていれば、あと十五分から二十分くらいで女性入浴は終ると判断出来るのである。

 

それを見ていないということを彼は図らずも露呈してしまったのである。

女性の入浴中のフロアでの最優先事項は、入浴を終了して出てこられる利用者さんの介助である。歩行をサポートし椅子に座らせ飲み物をお出しする。補水が終ったらドライヤーで髪を乾かす。そしてテーブル席への移動。

 

この繰り返しが最優先事項なのに五十嵐氏は殆どやらない。

利用者さんとのお喋りに夢中になり、まったく浴室方向を見ない。何人もドライヤー待ちの人が出て来ているのに気付かない。気付かないどころか利用者さんと将棋を始めたりする。優先順位が完全に違っているのだ。

 

五十嵐氏についてはいずれ日を改めて書きたい。

今日はミーティングの疲れで一杯。

 

 





 

20) チャンカ、チャンカ、チャンカ、チャンカ に続く。

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