わしも介護をやってみた!(3) 叱責と職場バランス。
六月二十一日(月)。
初めて送迎車に乗る。
送迎車には運転手と添乗員という二名が必ず乗るのであるが、当然今日の私は運転手ではなく添乗員としてである。しかもちゃんとベテラン添乗員(女性)がいて、そのオマケとして乗り先輩のすることを見て学習するという構成である。
いや、とにかく凄い。
先輩女性のまるでバスガイドの如きトークに驚く。よどみなく話は続き、しかも一方的語りかけではなく、ちゃんと利用者さんを巻き込んで話が広がって行く。非常に楽しいお喋りの輪を展開させているのに、ちゃんと走行中の利用者さんの安全もチェックしている。
恐るべき女性である。まるで映画「七人の侍」の宮口精二の如き剣の達人という感じ。とても私はこんなに喋れないし、これほどあちこち配慮出来ない。
どうする?
六月二十二日(火)。
前日の送迎初参加の時は運転手と女性添乗者(宮口精二の如き剣の達人)と私(見学)という構成だったが、今日は運転手(パート女性)と私という二人だけなので慌てる。今日も見学扱いだと思っていた。
最初に行ったお婆さんの家でノックをしても声をかけても出て来ない。狭い道路に止めている車が邪魔になり何回か通行する車の回避のため運転手が動きまわる。あせるがお婆ちゃん出てこない。やっと返事があり裏手の縁側越しに話をすると眼鏡がないと大騒ぎしている。
眼鏡は三四個新聞の上にあるのだが、それではないと言う。あちこち探すがみつからない。運転手、やっと車の回避から戻って来る。「早くして」と焦れる。ベテランならこういう時いい方法をもっているのだろうなと思うが、私にはお婆ちゃんの「捜索」に付き合うしかない。
結局どれでもいいからかけて行こうということになり、この眼鏡は合わないんだけどと渋々のお婆ちゃんをやっと車に乗せる。この方は土曜日も眼鏡忘れたとセンターで一日中言っていたことを思い出す。
「今日帰ったらゆっくり探しましょうね」と私が言うと「玄関の鍵閉めたっけ」と言う。「私が閉めてあげましたよ」と言うと「ああ、今日はあんたが迎えに来てくれたんだね」と縁側で私と顔をあわせた時と同じことを言う。土曜日に一回しか会ってないのに私の顔を覚えていてくれていたことが改めて嬉しくなる。
台風一過の快晴のもと狭い道のお迎えが数軒続く。クーラーがきき過ぎていないかシートベルトは確実にかかっているか、車椅子のロックは万全かと気にしながらも、利用者さんにリラックスしてもらえるよう話題を探す。でもなかなか舌は回らない。お喋りタイプでない自分を呪う。
とにかく狭い道なのでやがてここを運転するのかとそちらの恐怖も走る。しかも各御宅が何処にあるのかまったく分からない。利用者さんへの気遣いで道路のことまで覚えてられない。
さて一日があっという間に終り、送り届ける時間となる。
当然送りも添乗となるが運転手(女性)が朝と違い送る利用者さんも二三名多い。でも眼鏡のお婆ちゃんは一緒。
狭い住宅街を送り続け最後がそのお婆ちゃんひとりとなる。私はお婆ちゃんに再度「家に帰ったら眼鏡さがしといてね」と言うと「眼鏡かけてるよ」と言う。私は「それは合わない眼鏡でしょ」と言うと「あ!これ違う眼鏡だ」と驚く。「だから今日探しといてね。絶対家の中にあると思うから」と私は念を押す。
その会話がよくなかったと思うのは、お婆ちゃんを送り届けて運転手と二人きりになった時だった。その女性運転手は私という新米に注意をされた。
まずその眼鏡のお婆ちゃんが降りる時、手荷物と杖をお婆ちゃんに持たせていたこと。荷物などが車内の何かに引っ掛かり、転倒や骨折をすることがあるので必ず介助者が持つこと。絶対守って下さいと言われる。
そしてもうひとつ。
これは注意と言うより殆ど怒っているという感じで女性は言った。
言葉遣いがよくない。馴れ馴れしいと言う。
え?と意外に思う。むしろ他人行儀で堅すぎる言い方ではないかと私は思っていたのだ。
あなたはあの利用者さんと人間関係を築いていますか?と女性は聞く。当然人間関係を築いていますとは言えないので「いえ」というと、だったらどうしてああいう口調になるんですか?眼鏡探しといてねとか、どうしてああいう口調で言えるんですか?ちゃんと人間関係を築いてからならいいけど、築いてないあなたがそんなこと言えないんじゃありませんか?確かに痴呆のある方だけど。と言う。
意外な成り行きにちょっと私は言葉が出ない。「すみません」と謝るしかない。
私はあのお婆ちゃんが私を覚えてくれていたので「距離」は一気に縮まったと読んでいたのである。あの朝のエピソ-ドの続きで私は話してしまっていたが、朝のエピソ-ドを知らないこの女性には、余りに馴れ馴れしい対応という印象を与えたのかも知れない。
朝の運転手の女性であれば私の態度があるていど了解できたかも知れないが、それを知らない人が見たら、なんて馴れ馴れしい奴だと思われることは間違いないと遅ればせながら気付く。
この女性は非常勤ではなく常勤で、数年のキャリアの二十四五歳と思える人なのだが、この職場に転勤してきてからはまだ数ヶ月という外様状態で、古株のパートさんと「妙な心理戦」をやっているフシがある。
サービスのやり方を巡っても微妙な対立があるようで、送迎車のドアを開けた途端「きゃあ、寒い」などと批判がましいことをさらっと言ってのけ、その時の添乗女性(宮口精二の如き剣の達人)が「寒いかしら?」などと憮然として私に聞く局面も昨日あった。
私の未熟。社内の人間関係。課題はたくさん。
(4) 新人の立場 に続く。