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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

わしも介護をやってみた!(32) 忘年会

 

十二月十一日(土)。

忘年会の前日五十嵐氏は「出られない」と忘年会幹事の黒岩氏に言っていた。

おやまあという感じで私は聞いた。

まったく職場の人間関係に溶け込めない五十嵐氏である。忘年会に出ても、ういてしまうことは充分予想出来た。仕事中の対応はどうであれ、伊豆さんに言わせると女性職員はとても五十嵐氏のことを嫌っているそうである。

それを五十嵐氏も感じるのか、仕事前や後の職員の雑談にもまったく入って来ない。ポツンと遠くにいる。

伊豆さんの話では「辞める」ということも口にしているそうであるが、正直私も辞めたほうがいいと思う。でもかなり意固地だと思えるので辞めないだろうなと私は思っている。

 


さて忘年会に向けてマツケン組は燃えていた。

二次会でカラオケに行き、マツケンサンバを踊ろうと盛り上がっていたのである。

でも忘年会そのものへの新人の参加が意外と少なかった。

旦那さんが夜の外出を許さないとか、子どものこととか、いろいろ用事があるそうで思ったほど参加者はなかった。

私は、それぞれの理由を聞きながらも、ひょっとしてマツケンサンバが新人たちに負担を与えているのではないかと心配になった。

表面上は職場の流れとして受け入れているが、本当は嫌で嫌で仕様がなく、まして二次会でカラオケなんて付き合わされたらたまらないと参加しないのではないかと勘繰った。勿論あくまでも単なる勘繰りである。私の心の反映に過ぎない。

 


忘年会の日私は午後一時までの勤務だった。

利用者さんと一緒に昼食をとり、ひととき語らったあと帰るのである。

その時、宮口さんの近くの席になった。久し振りである。ここのところ宮口さんの出勤は極端に減っていた。管理側との対立で辞めるのではないかと懸念していたが、そうではなく年末調整の時期でパートの年収を超えそうなので制限しているとのことであった。

利用者さんとの語らいという範囲を逸脱せず私は宮口さんと会話をした。

その反応の中に宮口さんの私に対する気持ちを探った。

もちろん気に入らない奴だと思っておられても、そのような気持ちを出す人ではない。

 

お昼のメニューを糸口として料理の話題、家庭の味、食べ方のこだわりなどを私は話した。もちろん利用者さんが笑えるように。

宮口さんも絶妙に話を広げてくれた。私と宮口さんは利用者さんを挟んで和んだような気がした。これもまたあくまでも私の心の反映である。

そして帰る時宮口さんからビデオを今日受け取ったということを聞いた。笑顔だった。ホッとした。

サンバのステップの話になった。私は「ステップなんてとても踏めませんよ。フリをまねするだけです」とあくまでも完璧を求めず、楽しさを皆さんと共有できればいいなという姿勢を宮口さんに話した。

宮口さんが参加するかどうかは分からない。でも宮口さんは楽しそうにサンバのことを語った。

 


夜は忘年会なので再び会えると思って「ではまた」と辞したが、宮口さんが忘年会に参加しないと知ったのは会場に行ってからだった。

考えてみればそうである。出勤するたびに確実に「四時半上がりという策略」を受け続けているのである。ミーティングで余計なことを言われては困るという露骨な管理者側の意図であった。

そんな奴らの忘年会に参加出来ないと拒否するのは当たり前と言えるだろう。

 

不協和音を根底に秘めながらも忘年会は始まった。

幹事黒岩氏は、幹事というのは会場の段取りをして会費を集めたら終りとでも思っているらしく、体育会系の人間にしては随分気の効かない幹事ぶりでちっとも動かない。仕方なく富士見さんが小間使いのように動き回る。まるで職場の再現だ。

非常勤組と管理側は偶然ではあろうが、はっきりと席が分かれて座ることになり、私はその中間に座ることとなった。ここでも職場の再現だ。

私の向かいには伊豆さんとナースの榊原さんが座る。みんな職場よりおしゃれしていて一寸どきどき。

 


全部で十八名の参加者は、まるでうなぎの寝床のような長いテーブルにぎゅうぎゅうに座り、身動き出来ない状態で呑むしかない状態。昔の宴会のようにみんなのところに酌をしてまわるということも出来ず、それぞれが座ったところでだけ歓談が続いた。

私のすぐ近くに新人の中では一番フリを覚えている女性がいた。

やたらと「わっはっは!!」と豪傑笑いをする人で、一番ノリがよく明るい女性である。

伊豆さんが「明るいいいキャラクターだよねえ」と女性を誉めると、女性が「いえ、最近明るくなったんですよ」と言う。

それまで子育てが大変でとても暗かったという。でもやっと小学生中学生になりある程度手が離れ、明るくなったと言う。

でも皮肉なことに、そんな時に夫が失業してしまって家でごろごろしているという。

「一日家にいるのに、家事も何にもしないんですよ。うちの旦那。もうバッキャローですよ。わっはっは!!」と笑う。その話題にのって女性たちの配偶者の悪口が続く。もう笑って話すしかない世界。私はひたすら平身低頭。

 

二次会に向かう頃にはみんなすっかり上機嫌であった。

伊豆さんや新人だけではなく管理者側から富士見、久保田という女性陣も加わった。

カラオケボックスに入ると、当然だが踊るようなスペースはない。たんなるカラオケ大会になってしまい、いきなり二曲目でマツケンサンバである。

当然のように私に歌えとみんなが言う。

「いえ私は、口パクでショーはやるつもりですから」などと言っても通じない。

歌わねばならない。

しかし歌い始めて驚いた。全員が歌っていた。大合唱であった。みんなビデオを毎日見て踊っているので、もうすでに完全な心の歌になってしまっているのだ。

歌いながら上半身だけでも手振り身振りをする新人たち。マツケンサンバの明るさは、ある意味様々な問題を含んだ、職場と日常を打破する宗教とでも言うべきスタンスを獲得しているようであった。

さあこのエネルギーはどう花開くか。

そしてどういう波紋を広げるか。

 

 










33) ふたたび月曜日のレッスン に続く。

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