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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

山田ファンの始まり(23)ドラマを書く楽しさ

 

「山田ファンの始まり(23ドラマを書く楽しさ

 

 

 

 

山田さんとの交流は結婚後変化しました。

山田さんは益々いそがしくなり、私の抱えるものも格段に増えました。

結婚後まもなく妻の父が心不全で亡くなるという不幸が訪れました。

九州での結婚式に参加した際、親戚一同寝台列車に乗り、賑やかな九州ツアーを楽しんだのですが、どうやら旅行中に血圧の薬を飲んでいなかったらしいということが分かりました。それが原因かどうかは今も不明ですが、思わぬ訃報となりました。

 

もう一つ不幸が訪れます。

私の母が、地下室への階段で足を踏み外し、真っ逆さまに落下しました。勤めていた病院の出来事でしたが、その時、頭をかばい腕を骨折しました。それだけでも十分不幸ですが、それは不幸の序章でした。

 

母の入院中に叔父(母の弟)が連帯保証人になって欲しいと申し込んで来ました。

友人と会社をおこすことにしたから、銀行から資金を借りなくてはならない、そのためには担保が必要だ、父と母が連帯保証人になってくれれば、家があるから、それを担保に金を借りることが出来るというのです。

 


会社の内容も分からず母は逡巡します。父も逡巡します。

その時入院騒動で夫婦の連絡がうまくとれていませんでした。そこに二人の間に勘違いが発生します。再三申し込んで来る弟の願いに「どうやら夫は許可したらしい」と母は思い、「どうやら妻は許したらしい」と父は思いました。

お互いに「許可してもいいと思ったらしい」と思い込んでしまったのです。何故そんなことになったのか、これまた謎ですが、混乱の中で二人は保証人のサインをしてしまいます。



 

それから一か月もしないうちに叔父の計画はとん挫します。

共同出資でという約束だった相手の男が裏切ったようでした。ほとんど詐欺のようでした。金は返って来ません。

叔父はヤクザに頼んで資金回収を画策します。しかし相手もヤクザを雇い攻防戦となり結局金は返って来ません。相手の方が何枚も上手のようでした。

 

父と母は、骨折であたふたしている間に連帯保証人として巨額の借金を抱えたのです。

「同じ家をもう一度買うことになった」と父は激怒しました。やっとローンを終えたところでした。尚且つ私たちの結婚式で大変な出費をしたところでした。どれほどの怒りだったことでしょう。

 

 

私たちも結婚式で、すっからかんになっていましたが、この事態に、貯金する金があったら援助しようと思い、少ないけれど月々送金することにしました。

一方で妻の方の法事が続きます。

結婚式は一回で済むけど、葬式の後は初七日、四十九日、一周忌、三回忌と次々と続きます。これは結構出費で、貧乏夫婦はへとへとになってしまいます。

そして、そんな時に子どもが生まれるのです。

これは久しぶりのお祝いごとで、みんな祝ってくれました。

山田さんも祝福してくれました。



 

当然と言えば当然ですが、私は抱えるものが格段に増えて山田さんとの付き合いも変化しました。独身時代の身軽さで、ご自宅に伺って夕食をご馳走になるなんてことはなくなりました。会うとしても何か山田イベントがあった時に出向いて、イベント後にほんの少し喋るという形になりました。あののんびり語りあえた至福の時間はもうなくなったのです。

 

のんびりとした時間とは、こんな感じでした。

「そこで、お爺さんが包丁を持ち出してくるんだよ、ふふ」とリビングのソファーに座った山田さんが笑いながら語ります。

「若者は布団に横になっててね、そこにお爺ちゃんが包丁を突き付けるんだよ。それで、お前出ててけって言うんだよ。お前がいると俺が首になっちまう、出てけっていうんだよ、ふふふ」

 

もし脚本をお持ちの方がいらしたら「上野駅周辺」(1978NHK)第6話を見て下さい。

お爺ちゃんとは藤原釜足、若者は水島涼太です。

 

不器用な若者水島涼太は東京での就職を失敗し続け、やっとのことで小料理屋の皿洗いの仕事を紹介してもらいます。

その職場の先輩が藤原釜足演ずる老人です。

愛想のいい藤原釜足ですが、夜になってみんなが寝しずまった頃、豹変します。水島涼太に包丁を突き付け「出て行け」というのです。

年寄りだってやっと仕事にありついているのに、若い奴が入ってくれば、そっちがいいと思うに決まっている、オレは首になる、だから出て行けと藤原釜足は脅すのです。世知辛い東京で、雇用問題に老人問題も絡めたシーンですが、それを、ちょっと喜劇的シーンとして展開する山田さん。

まるで悪戯を思いついた子どものように楽しそうに私に語られるのです。

 

「緑の夢を見ませんか」でも倍賞美津子と北村和夫が一夜を共にした翌朝の話を楽しそうに語ってくれました。

 

あのシーンは倍賞美津子が中年サラリーマン北村和夫に同情して、慰めてあげようという気持ちで寝てあげるんだけど、生真面目な北村和夫は、翌朝枕元にお金を置いていきます。それで倍賞美津子が寝ている間にそっとペンションを出て行ってしまう。

 

後で目が覚めた倍賞美津子は驚いて「私は売春婦じゃない!」と怒るわけです。せっかくいいことしたって気分でいたのに、台無しになったと怒るわけです。

そのシーンを山田さんはクスクス笑いながら「お金を置いてくんだよ、それで女が怒っちゃうわけ、私は売春婦じゃないって、ふふ」と楽しそうに語ってくれました。北村和夫と倍賞美津子がどんな芝居をするか、ありありと目に浮かぶようで、本当に楽しそうでした。

 

夕食後と言えば一日の執筆が終わって一息ついた時です。そういう開放感だったのでしょう山田さんのその姿は、ドラマを作るってことはとても楽しいことなんだと思わせてくれました。

でも、その後巨匠になってから、私はもう伺うことはなくなったから分からないけど、あんな楽しい感じで書いておられたのだろうかと思いました。内容がどんどんハードになって行きました。クスクス笑って語れるようなシーンは減っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田ファンの始まり(24)歴史とは何か」に続く。

2021,11,3
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