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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

どうして私のことを知ってるの?

 

 

「どうして私のことを知ってるの?」


突然電話してきた女性はそう山田さんに聞きます。


「どこで聞いたの?絶対調べたでしょう?そうでなきゃこんなことあり得ない」と更に問い詰めます。

山田さんがまだまだ駆け出しのライターだった頃の話です。テレビ局に電話をすればライターの電話番号を教えてくれて、個人情報なんて概念がゼロだった時代。一般の視聴者から、そんな電話がかかってくるなどということがあったのです。

 

女性(おそらく主婦と思える)が何を言っているかというと、山田さんのドラマに自分のことが書かれていると怒っているのです。どこで私のプライバシーを知ったと大変な剣幕です。

もちろん山田さんには身に覚えのないことです。誰かを調べて書いたわけではない。

でも、その人にとっては、ど真ん中を射貫かれていたらしく、戸惑いと恥ずかしさで怒り心頭。

 

山田さん、とても困ったと当時語ってくれました。
まだ「岸辺のアルバム」のような主婦に焦点をあてたものを書いたわけではなく、「それぞれの秋」も書いてない頃です。


何を見たんだろう?と思いますが、それは聞き逃しています。

でも、初期の作品をみていると、端々に「岸辺」や「それぞれ」の片鱗がありますから、そこだったのかも知れないとも思います。いえ、全然別のところかも知れない。

 


山田さんのご長女が父のドラマを見て「あ、これはこの前食事中に私が言ったことだ」なんて体験談をネット上に披露していらっしゃいますが、身近な人ならそういうことはたくさんあるかも知れません。

私も長い付き合いの中で、あ、これはあのことだなと思うことが幾つかあります。
でも、この女性のようにとんでもない勘違いなのかも知れません(笑)。


 
皆さん方も登場人物に対して「これは自分だ」と思ったことがおありになるのではないでしょうか。具体的なエピソードでなくとも、もっと核となる部分で「これは自分だ」と思ったことが。

 

 2020.9.12

 

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