再会(1)
「再会」(1)
長塚京三
[梗概]
ある日、大手警備会社に勤める長塚京三は、元妻・倍賞美津子を街角で見かける。
運転中だったので追いかけることはできなかったが、他の男もとへ去った元妻との再会に長塚京三は穏やかならざるものを感じる。
長女・石田ゆり子が嫁いでからは長男・岡田義徳と静岡・浜松で暮らしているが、勝手なことをした母を、二人の子どもは許していなかった。
しかし倍賞美津子は男と死別するという不幸に襲われていた。そして戻って来たのだ。
二人は、人の好い父は簡単に母を許してしまうのではないかという危機感を持っていた。
もちろんそんなことがあるか!と長塚京三は言うが、あくまでも強がっているという印象がぬぐえず、離婚後の父の寂しさを見ている娘は安心できないと思っていた。
こうして「再会」をめぐってそれぞれの思惑が展開していく。
第56回芸術祭優秀賞受賞作品。
2002年日本民間放送連盟賞優秀賞受賞作品。
ドラマ終了後、まず私は「ドラマ・ファン」にこういう書き込みをします。
「再会」を見て、
ああ、もう一回あれを読みたいと思って図書館に行って来ました。
もう子供が生まれてから、蔵書のスペースはどんどん侵食されて私の個としての部分は皆無に等しくなっているのだと改めて思いました。
なんたって菊池寛の「父帰る」を読み返すのに図書館に行かなきゃいけないなんて、結婚して所帯をいとなむというのは半端じゃありません。
これだけ個を殺して生活しているのに家族からはちっとも幸せじゃないなんて文句言われて、ああ、もう、いっそ投げ捨てたらどれだけすっきりするか。
なーんて願望は誰しもあるということをベースにした話ですが、「父帰る」も「再会」も投げ捨てられた家族が最終的にはその者を許すという話です。
6年ほど前ですか氏の「パパ帰る」もそういう話でした。
一度始まった人間関係というのは裁判の判決のように見事に割り切るというわけにはいかないのでしょうねえ。
離婚した夫婦が何年かしたら、時々あってラブホテルに行く関係になっちゃってるなんて話も聞くし、なんだか訳の分かんない営みをしているのが人間というものなのでしょうか。
いいなあと思ったのは母親が自分勝手なことをしたと息子に謝ろうとしているのに、息子はそんなことどうでもいいんだよ、誰だって好きなことしたいさなんて反応で、親子の濃密な関係性がまったくないところです。
というか娘の反応もそうですが親子関係に濃密なものを期待してないというか、とてもさめてるというか、そういう描写がとても良かったですね。
さすが山田太一、相変わらずこのへんの描写はうまいなと思いました。
でもそれは親子の場合のリアリティであって夫婦となると話はまったく違います。
これは私が体験的に感ずることですが、他の女性にされても怒りが起きないのに妻にされると腹が立つなんてことがあるんですね。同じように妻もまたそのような感情を私に持っていることが分かるんです。
それはどう云うことかというと二人とも
「夫だったらここまで思いやるのが当然じゃないか」とか「妻だったらここまでしてくれるべきじゃないか」というような事を暗黙のうちに思ってるんですね。
で、それがかなえられなかった時、初めて自分がそんな期待を持っていたことに気づくんだけど、それはつまりお互いに他人以上の濃密さを求めてるってことです、親子がさめた関係になっていくのとは違う関係なんですね。
子供が個を主張して親から離れていくのは健全だけど、夫婦、恋人というのはそうやって個として社会に出た者同志が、個と個の力強い結びつきをお互いに感じると認知しあった関係なわけですね。だから基本的には親子関係とは逆方向に矢印が向いた関係なんですね。
濃度はどうあれ。
河合隼雄氏が「愛」という言葉はファイナルワードだと思っていて使いたくないと言っていますが、私もまた同じ意味で使いたくないんですけど、言葉はなんであれ、個と個がなんらかの力強い関係を求めていることは間違い無いことだと思います。
この話では夫との関係や子供らとの生活より、自分の個としての躍動を感じた関係性に身を投じた妻と、裏切られた夫が再びよりを戻すという話です。
普通に考えるととっても情けない二人の話です。
でもそれは、お互いに過去にいかなる恩讐があろうとも、いま現在、個と個としての結びつきを少なくとも他の人間関係よりもお互いに認めあえるということなのでしょう。
だからこそもとのさやにもどれるのでしょう。
濃度はどうあれ。
この二人をいい加減、一貫性がないなどと批判できる力強さは私にはありません。
私はこの物語をとても辛い物語として楽しみました。
ただ、ただですよ、演出がツボをはずし過ぎてる。
優しく優しく撮り過ぎてる。
あの癒し系の音楽流しすぎ。
だからメリハリなくなっちゃって、肝心なところで生きて来ない。
台詞の並び方、シーンの重ね方で脚本家がどんな演出を期待して書いてるかというのはある程度分かるものですが、どう見ても外してるなという感じがしました。
静かなシーンが続いたら、次はワッという活気のあるシーンを狙ったんだろうなというところが、やっぱり静かに始まっていたり、うーん、たのむよー、て感じになっちゃいました。
おまけに、あのラスト。
予定調和ということは百も承知で山田氏は書いてるのに、だからこそ、テンポよく畳み掛けるようにサッと終わんなきゃいけないのに、フランクキャプラの「素晴らしき哉 人生!」のラストのようにワッと終わんなきゃいけないのに、わざわざスローモーションにしちゃって蛇足にしてる。
山本恵三氏きっと心の優しいいい人なんだと思います。
優しく優しくどのシーンも同じトーンで撮りすぎです。
結果、キレがない。
残念。
これが私の再会に関する最初の書き込みでした。
これに対し様々な感想が書き込まれます。
ある方は演出とキャスティングに対する違和を語り、
またある方は次のような感想を語ります。
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ドラマ全体としては、私は、満足度60%くらいです。
でも、良い台詞たくさんありました。
ドラマの流れで感動する場面は少なかったけれど、台詞にドキッとして、CMの度に気付くと泣いていました。
娘に「なんで泣いてるの?」とCMになると聞かれて、その度にしらけて、でも、CMが終ると、次のCMまでは、娘が気を使って話し掛けてこないのが、気の毒・・と思いながらも結構集中して見ました。(気を使っていてくれたけれど、後半、鼻血を出していて、構わない訳にもいかず、またしらけました。)
石田ゆりこの家の前での会話で泣きました。
母親の「そんなこというようになったんだ」という言葉。
さらりと言っているけど、心にズシリときました。
あと、息子の「お母さんは自由だよ。それぞれ生きていこうよ」という言葉です。
やっぱり自分で子供を産んで育てているせいか、母親側の気持ちで見てしまいました。
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ある方はまたこのような身辺雑記も混ぜて語ってくれます。
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今日の夕食時、夫が「再会」を見るのに付き合って再び見ました。
10分くらいで夫は「演出がもたついてるなあ。」とひとこと。
私は、「でもセリフとしてはいい言葉が一杯あるよ」と言って、私がメルヘンと感じたシーンを見て欲しかったので最後まで見てくれることを願っていたのですが、そのシーンの時には夫は新聞の切り抜き作業に没頭しておりました。
「男たちの旅路」が長塚京三の日本でのデビューだと断言してました。
ほんとかな?夫の断言はいつもかなりいい加減なので私は誰かにもう一度確認せずにはいられない。
我が家の場合、夫婦の濃度は……・……・・…こんなもんです。
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またある方は次なる長文を書き込みます。
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台風の接近で荒れ模様の夜更けです。
神奈川県に全ての注意報が出て、明日は仕事は休みですが外出する用事がある私は、着ていく服をどうしようか、気に入っているあの服着ていけなくて困るとか、靴をどうしようとか、そんなことばかりさっきから考えているのです。
でも、はっと気付くとこの台風で死者も出ているし、がけ崩れにおびえている人や現に避難している人たちもいるのにと、自分のことしか考えていない身勝手さにふと思い至ったりします。
身勝手で弱くてすぐに心が揺れて矛盾したことばかりして。
私が山田ドラマに惹かれるのは、そういう側面も持ちあわせる「ひと」というこの不思議な存在を多面的に、しかもそれを終始暖かいまなざしを向けて描いてくれるからかなと思います。
今回の「再会」でもそうした氏のまなざしを感じました。
ただ、ラストは○○さんと同様、私も妻には戻って欲しくなかった。
初めのシーンで夫が街なかで妻を見かけた時の動揺ぶりでこれは戻ってきて欲しいのだと、で、「パパ帰る」を思い出し、きっと妻が戻るのだろうけれど、できれば戻って欲しくないと強く思ってしまいました。
夫以外の人に心惹かれても、家族を捨てるところまでいくには(シュミレーションは結構多くのひとがするとしても)、妻としてはかなりの飛び越えたものがあったと思うのです。
そのことにこだわって観すぎてしまったかもしれませんが、再生は可能だとしてもそれが再び共に暮らすという形でおさめてしまうのは無理があるように思えてなりません。
一緒に暮らすということをやはり男性は求めてしまうのでしょうか。
そうであったらいいという願望でしょうか。
ラストに無理を感じてしまったけれど、子どもたちとの関係は山田ドラマらしいきめ細かさがあふれていて楽しめました。
娘と息子に対する母親の思いの差、娘には結構クールでも息子にはウェットになって、夫の前でよりも女性としての自分が思わず出てしまうようなところとか。
実は、日曜日に書き込みして送る段になって、トラブル発生。
パソコンに不具合生じて、しばらくさわれないでいました。
辛口過ぎたきらいあり。
少し間をおいて、でもやっぱり、のところで書きました。