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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

記念樹

 

「記念樹」1966(昭和41)年作品。

木下恵介劇場TBS全46回。

          

 

 

長いこと思い出の作品でしかなかった「記念樹」が、2005年5月26日からホームドラマchにて週5日間のスケジュールで放送されました。古参山田ファンは感激しました。

その後DVD化されファンの夢はかないました。

脚本は殆ど木下恵介さんと山田さんが担当されており、そのほか何名かのライターが参加されていました。

 

 

ここでは、山田脚本の梗概のみ書いていきたいと思います。

 

 

15年前に植えた桜の樹を思い出とする、「あかつき子供園」出身の人々の物語。

国鉄鴨ノ宮駅を小田原方向に出ると、すぐに列車から見える桜の樹という設定。

出演:馬淵晴子ほか。

 

 

4 四月の涙       

 

コメディアンの東京ぼん太を主演にした物語。

だらしない父親に悩む息子の哀しくほろ苦いお話。親子の宿命性を色濃く感じさせる。

 

 

5 緑の風に聞けば    

 

歌手仲宗根美樹を主演にした物語。後年の「男たちの旅路 墓場の島」をちょっと思い出させる。

「あかつき子供園」出身の歌手の孤独にスポットを当てたお話。

 

 

 

 

 

6 消えて行く歌     

 

余命幾ばくもないない「あかつき子供園」出身の女性に、いわく言い難い貴重な気持ちを持った男と、その男性に恋する別の女性の物語。

  

 

 

 

10 ジョニーが凱旋する時   

 

「あかつき子供園」をよく慰問してくれた米兵と青年(石立鉄男)の物語。

詳しい経緯は省略しますがこういう石立鉄男の台詞があります。

 

「憐れみはうけたくねえって突っぱねりゃタカシ(注。友人)は気に入るんだろう。孤児ってのは他人の親切がなきゃ一日だって生きちゃこられなかったんだ。全部他人の親切さ。憐れみはうけたくねえ、余りものなんかにニコニコしたくねえって粋がって言えるお前は幸せだよ。俺はロジャーさんの親切がとても嬉しいよ。例え多少俺の自尊心が傷ついたってロジャーさんの気持ちを傷つけるわけにはいかないんだよ、俺は」

 

 

そのロジャーさんはベトナムという戦場と日本を往復しながら、こういう気持ちをもっています。

 

「私は十分に人を愛しただろうか。私は人間らしく生きただろうか。戦場という人間らしくない場所で(略)」

 

いい台詞が一杯です。

 

 

 

 

 

 

11 六月のお母さん   

 

小さな商店を営む家庭に嫁いだ「あかつき子供園」出身の娘と姑との、小さないざこざの日々を綴った物語。

細かな出来事で支えられた庶民の日々は、細かなことだからとないがしろには出来ないもの。

そんな小さな涙、口惜しさに溢れた、ほろ苦いけど心温まるお話。

 

 

 

 

 

 

 

12  晴れて来る空に   

 

映画「あこがれ」にも一部使われたモチーフ。

酷い父親に捨てられるように施設に預けられた子供の、父への思慕と施設の職員の葛藤。これも親子の宿命性を色濃く感じさせる話。

 

 

 

 

 

 

13 追憶の白い雲    

 

「あかつき子供園」の園長馬渕晴子夫婦の馴れ初めと、交通事故による死別を語った大筋の物語。

 

 

 

 

 

 

14 入日の詩      

 

小坂和也を主演にしたお話。

子供の頃から何故か養老院が好きで、お年寄りに可愛がられていたが・・。

 

 

 

 

 

16 汗のにじむ夢    

 

クリーニング屋に勤めた子供が、青年になるまでの物語。

 

不器用で要領の悪い子なのだけど、そんな自分を決して卑下せず、むしろ「あかつき子供園」の先生に書く手紙は自分の自慢話として脚色してしまうあつかましさを持ったところが微笑ましい青春記。

 

 

 

 

 

18 終点で語る二人   

 

混血として生まれた娘(十朱幸代)の物語。

 

バスガイドとして働く娘は四十近い運転手を心密かに慕っているが、その年齢差と混血という出自にこだわっていた。そして男もまた、いい歳をして若い娘と結ばれることに抵抗があった。

時折り仕事が同じバスになった時、深夜、終点で折り返すまでの待ち時間、二人は自分たちのこだわりと願いを語る。

 

 

 

 

20 十年目の父    

 

工藤健太郎主演。園の仲間である友人(関口宏)に突然父親が訪ねて来た。同じく孤児で父親の顔すら知らない主人公はまるで自分のことのように喜ぶが、父親の来訪には裏があり、それを知りつつも・・・・。

 

 

 

 

 

21 かげろうの行方   

 

小さな板金工場を営む夫婦の家に養子に行った心優しい少年の話。

夫婦はその心根の優しさを嬉しくも思うが、頼りなさも感じる。優しさだけでは生きていけない現実を少年にさとしたりする。

 

やがて少年は成人し、小さかった工場を一回り大きくするほどの敏腕経営者となったが、そこには心根の優しい少年の面影はなかった。現実は少年を逞しく育てたのである。でもそれは夫婦にとって淋しいことでもあった。皮肉なことだがそれはそれで哀しいことであった。

 

そこへ、心優しかった少年時代を知る、幼なじみの女性が困窮して訪ねて来る。

 

 

 

 

 

23 その心に降る雨   

 

寺田農主演の話。一組の男女が見合いという形で知り合う。男は自分が孤児であることに、女は自分の足が悪いことにこだわりを持っていた。気にしていないとお互いに思っていても、心のしこりと世間の偏見を克服するのは簡単なことではなかった。

 

 

 

24 秋の墓       

 

吉田日出子主演。奉公に行った家庭での、疎外されたお爺さんと「あかつき子供園」出身の娘の交流。

 

 

 

 

 

 

25 ある青年の靴   

 

田村正和主演。大船駅構内、大船軒の弁当売りの若者とその恋人。簡単には結ばれない境遇の二人と、名乗り出ることは出来ないが陰で見守る実の母親の涙と喜びを描く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

37 冬の旅     

 

苦学の末に大学を出て夜間高校の教師をする「あかつき子供園」出身の男性。しかしその職はとりあえずという職でしかなく、その教職に対する事務的な態度、熱意のなさは、教え子に、苦学して高校を卒業する必要があるのかと、勉学への迷いを抱かせるほどであった。

 

そんな男性がある女性と出会う。

 

その女性は、自分は今の仕事を続けられるような神様みたいな人間じゃない、自分はそんな立派な人間じゃない、自分らしい人生を歩みたいと、現在の仕事を退職しようとしていた。

 

その仕事とは「あかつき子供園」の仕事だった。

 

 

 

 

39 去り行く年  

 

運転業務一筋に生きて来た私鉄の中年運転手(52歳)と、「あかつき子供園」出身の若き運転手との交流。

 

健康診断で目に支障をきたしていることが分かり、運転業務から事務にまわらないかと会社に言われた中年運転手。でも現実としては誰にも困難と思われる事故を防いだりするキャリアと勘を披瀝していて、仕事の精度は自他共に認めるところである。

しかしその会社の勧告は中年男にある変調をもたらす。

 

(ドラマとは関係ないメモ。「東急東横線 元住吉(もとすみよし)駅」を舞台にした物語ですが、この駅は長いこと山田さんのお住まいの最寄り駅でもありました。これを書かれた当時にお住まいだったかどうかは分かりませんが。)

 

 

 

 

 

41 目覚時計の歌  

 

ホットドッグ売りで生計を立てる「あかつき子供園」出身の若者。

その若者の前にやつれた初老の男が現れる。男は昭和18年の夏、桜木町の駅に我が子を捨てたと話す。それは若者が捨てられた時の記憶と一致するものがあった。

 

しかしそんな話はたくさんあり、男が調べた範囲でもその日三人の子供が桜木町の駅に捨てられていた。

特別顔立ちが似ているとか、お互いに共通する思い出があれば別だが、本当の親子かどうかわかる方法はなかった。

 

胡散臭いものを感じながらも、若者は別れがたく自分の部屋で一晩男と歓談の時を持つ。そして翌朝意外なことが。

 

 

 

 

 

44 佐渡は荒海   

 

馬渕晴子は「あかつき子供園」で教えた子が、会社の金を横領し逮捕されたと知らされ新潟の警察に向かう。しかし警察に教え子の姿はなく佐渡ヶ島にいるという。佐渡に逃亡して逮捕されたが、海が荒れていて足止めされているのだった。

 

馬渕晴子は教え子が犯罪に手を染めるとは到底思えず、船が到着するまでの時間、教え子の会社、下宿先、恋人を訪ね、教え子に一体何があったのか聞く。

そこに浮かび上がって来たものは・・・・。

 

 

 

45 産ぶ声   

 

「あかつき子供園」出身の若者に子供が産まれることになり、妻と訪れた病院での一晩の物語。

 

待合室で展開される様々な人の出産劇。産ぶ声を聞くまでの、家族のたくさんの思い、喜び、そしてとうとう聞くことが出来なかった悲しみの涙。

親に捨てられ、「自分の母親なんて産んだだけじゃないか」と思っていた若者の胸に去来するものは。

 

 

山田さんの「親ができるのは『ほんの少しばかり』のこと」(新潮社)に、ご長女が生まれた時のエピソードが描かれています。

熱海で木下恵介監督の助監督をしているときに、「生まれた」という連絡が入り、木下さんの配慮で、タクシーで向かうことになりますが、東京に着いたのは深夜です。

 

「考えてみれば、深夜に面会などできるのだろうか?赤ん坊はうまれたばかりだから昼も夜も分からず起きているだろうが、妻はきっと疲れて眠っているだろう。妻の母親も帰っているだろうし、夜中に一人で大げさに駆けつけても、看護婦さんが相手にしてくれないのではないか、などと思いはじめました。

(略)

産院に着くと、やはり面会は朝まで駄目だといわれてしまいました。『待合室でお待ち下さい』と看護室でこともなくいわれて、きっとこういうふうに夜中に駆けつける夫が案外多いのかもしれないなあと、少しほっとするような気持で待合室へ行きました。

(略)

そこに三組ぐらいの家族が待っているのです。

すると廊下で看護婦さんのバタバタという足音が聞える。「××さん」と呼ぶ。耳をすましていた三組のうちの一組が、『ソレ、うまれたッ』とワイワイ廊下へ出て行く。赤ん坊の泣き声が聞える。

妊婦が分娩室から自分のベッドに運ばれて行くのを、廊下で迎えて、ついでに赤ん坊の顔も見せて貰うんです。

『よくやった』『物凄い二枚目だァ』『ごくろうさん』『頑張ったね』『よくやった、よくやった』とひとしきり声がして、その組は帰って行ってしまう。

 

シーンとする。

ふっと片隅の母親らしい人と妊婦が目につきます。無論すぐには分からなかったのですが、看護婦さんが来たり、母親だけになったりしているうちに、お腹の赤ちゃんが死んでいることが分かってきました。

 

別の家族は妊婦の父親が、青くなって怒っている。声はひそめているけど静かな部屋ですから事情は分かります。娘の亭主が、どこにいるか分からない。何日も帰って来てないらしい。女を作ったんだ、あの野郎、と口惜しがる。お母さんは、周囲を気にして『お父さん、こんなとこで』などといい、娘は声もなく泣いている。

そこへ、別の家族が、陣痛のはじまった女性と一緒に廊下をドタバタとくる。『すいません。今電話した××です。陣痛の間隔が短くなって』と慌てた声が看護婦室の前で聞えます。

そっと待合室のドアがあいて男が入って来る。それが『女をつくって何日も帰らず、どこにいるかも分からなかった』亭主です。

『どうも』なんて、とぼけた男です。

『なんだい、誰に聞いた?』なんて、いままで青くなって怒っていたお父さんが軽い声を出して、全然怒らない。『みんなで待ってたのよ』なんてお母さんもいっている。妊婦は、また陣痛が始まったとかで、分娩室の方へ行っていません。『どうも、へへ』なんて、男は両親の横へかけて、煙草をすいはじめる。

 

とまあ、この調子でしゃべっていたら、きりがありません。とにかく、その夜は、眠いどころではなかった。長い一幕物の芝居を見ているような気持ちで、腹が立ったり、思わず笑ったり、ハラハラしたり、ちょっと涙がこみあげたりで、とうとう朝になりました」

 

 

 

という体験が生かされたドラマです。

 

 

 

 

46 記念樹よ!永遠に(最終回) 

 

馬渕晴子が新婚当時住んでいた家が焼け、庭にあった記念樹が燃えてしまう。思い出の記念樹を失くした人々は・・・・。

 

 

木下恵介脚本の 38話「冬の銀河」には、「あかつき子供園」のモデルでロケ地の「高風子供園」の園長が出演しています。この「高風子供園」は2005年に私が訪れた時、殆ど同じたたずまいで横浜本牧に存在していました。)




2020.12.14再録 

 

 

 

 

 

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