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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

幽霊は不倫する

「幽霊は不倫する」

 

「西田敏行の泣いてたまるかシリーズ第7回」

市川森一脚本 1986TBS

 

          

これ、いい話なんだけど、見た人いなかったんじゃないかと思うほど評判聞きません。

 

こんなストーリーです。

 

西田敏行演ずる美容師に、ある日「奥さんが不倫をしている証拠写真を買わないか」というゆすりの連絡が入ります。

 

ゆすってきたのは若い女、富田靖子です。

       

写真を見てみると、確かに若い男と楽しそうに歩いている妻(萬田久子)が写っています。

しかも、相手は店の客でとても親しくしている気のおけないやつなのです。

西田敏行は男を問い詰めますが、そういう事実はないことが分ります。

もちろん奥さんに対するあこがれはあったけど、そういうことはない、この時も将来のことについて相談していたのだと男は言います。

 

 

西田には分ります。そういうことはなかったのだと。

妻も男も信ずるにたる人間なのです。

ちょっといい男だから、女関係にだらしないところがあるけど、西田たちには誠実な男です。

この写真もそんな男の身辺調査中に撮られたもので、富田靖子が探偵事務所でアルバイト中に不正に入手したものと分ります。

 

西田はゆすりに応じない決心をしますが、富田靖子のある一言で態度を変えます。

 

 

「奥さんは今日もその男と会ってましたよ」

 

 

今日も会っていた。

 

そんな筈はない。

 

 

何故なら妻は1年前に死んでいるのだから。

 

 

 

妻と二人で作った美容院。

店の経営を軌道にのせるために身を粉にして働くだけ働いた妻。

いいことなんて全部後回しにして、やっと経営が安定して、さあこれから少し余裕かなという時にあっさり死んでしまった妻。

なんのことはない人生が終わってみれば結局苦労だけして死んでいった妻を思うと、1年たった今でもそのショックから立ち直れない西田がいるのです。

 

そんな事実を知らない富田靖子は写真を買ってほしくて、嫉妬心を起こさせる為にどんなに奥さんが不倫を楽しんでるかを語ります。

 

 

西田は突如、ゆすりに応じます。

いえ応じるだけではなく、さらなる調査続行の金まで払います。

 

 

何故?

 

 

西田は富田靖子の「嘘」を買ったのです。

ここが市川作品らしいところです。

 

 

毎回、毎回、富田靖子の不倫調査という作り話を聞きながら、西田敏行は、今は亡き妻が現在に蘇った姿を想像します。

 

 

そして妻が自分を裏切っていきいきと不倫をしている姿を、我がことのように喜びます。

 

        

 

良かったなあ、良かったなあ、いいことあって良かったなあと心の中で泣きながら。

 

 

 

そんな話です。

 

 

虚構を愛する市川森一氏らしいあざやかなドラマなんだけど、誰も語る人がいない。

私のような年寄りは不満です。

 

 

 

 

松本隆という作詞家が、僕は詞というのは優れたセンチメンタリズムだと思って書いていますと言っていたけど、このドラマもそんな感じで好きです。

 

 

 

2020.9.11 

 

 

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