忍者ブログ

山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

花の森台地

 

「花の森台地」

1974年読売テレビ連続ドラマ。

 

 

「花の森台地」の中で三田佳子は夫(中野誠也)に訴えます。

「私のいいところは、みんなあなたの為に使ってるのよ。あなたと結婚して、家の中で、私のいいところは全部あなたの為に使ってるのよ」

地味な生活の中で特別なことなど何もなく、日常をこなし続ける主婦は、夫がちゃんと評価してくれなきゃどうしたらいいのと訴えるのです。

 

 

このドラマを語る人に会ったことはなく、山田ドラマの中でも単なる履歴としてしか出て来ません。

 

売れ行き不振の建売住宅を売るため、モデルハウスに社員夫婦が住みこみ、訪れたお客に、住み心地の良さを実感を交えてプレゼンしようという設定のドラマでした。

でも主線は細々とした夫婦生活を描いており、例えば、レコードを聴きながら、「結婚前は行ったのに結婚後はなんだかコンサートにも行ってない、文化的に貧しいわねえ私たち」なんてぼやいたりする夫婦が描かれます。まあ、恋愛時代とその後の落差はどの夫婦でも感じるものでしょうが、そういう今まで着目されなかった庶民の声というものが描かれました。その中で、私の心に一番残ったのは専業主婦の孤独でした。

 

 

主婦のむくわれなさについて、よく「世界一の主婦になればいいじゃないか。胸を張ってればいいんだ」なんて訳の分からぬことを言う人がいますが、そんな有りもしないランキングを心の支えに出来るはずもなく、主婦業という、本当にハンドメイドな世界は、その事を享受している人のちょっとした一言、評価で報われるのではないかと思います。

 

 

しかし労働者が今もって雇用者に「雇ってやってるんだぞ」という値踏みされた世界にいるように、主婦もまた「誰のおかげでメシが食えてると思ってんだ」という屈辱の中にいるのでしょう。

 

よく出来て当たり前、ミスすれば「まったく主婦は気楽でいいよな」というようなざらりとした差別的視点から批評されたりします。

また、一方で主婦業というものは完璧にやろうとすると結構な分量になるけど、手を抜こうと思えばこれまたかなり抜けるもので、だから「よくやってくれてる」という評価も「どうせラクしてんだろ」という評価も相手次第というとても悔しい世界なのだと思います。

 

 

このドラマは山田さんが初めて関西のテレビ局と組んだものでした。

当時の関西ドラマは関西独特の泥臭さがあり、それを山田さんは警戒していました。とにかく「その演出」だけはやめてくれという気持ちがあって、かなり細かな注文をデイレクターに出したそうです。

それが功を奏したのか、オンエアされた「花の森台地」はとても素晴らしいものでした。感服しました。

山田さんも「いいよねえ、ホント、こんないい三田佳子初めてだよ」と喜んでおられました。デイレクターは一世一代の覚悟で臨んでるという話でした。

 

残念ながら映像は残っていないようです。

でも脚本は三田佳子さんが脚本アーカイブスに提供したと聞いています。閲覧するのはちょっと難しい状態のようですが、早く対応してもらえればと思います。

 

 

2020.9.26 

 

 

PR