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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

知らない同志

 

「知らない同志」

 

1972TBS連続ドラマ19回。

出演、田宮二郎、栗原小巻、杉浦直樹、山本陽子、石立鉄男、前田吟、他。

 


随分昔のドラマです。

TBSチャンネルが出来たころに再放送されたんですけれど、その後まったく放送されません。だからあまり見た人いないんじゃないかと思います。

 

 

スーパーの店長・杉浦直樹は、店の営業不振により左遷され、妻・栗原小巻を東京に残して大阪に転勤します。

その代わりに大阪からやって来たのが新店長・田宮二郎。

田宮二郎もまた妻・山本陽子を大阪に残しての単身赴任です。

当時流通革命の先兵と言われたスーパーマーケットを舞台に、コメディテイストの人間模様が繰り広げられます。

ちなみにTBS大山勝美さんと初めて組んだ作品です。

 

         

このドラマを執筆している時、ご自宅で、山田さんから少し構想を話してもらう機会がありました。

私は、次は何書いてるんですか?と遠慮なく聞く人間でした。すると山田さんはこう言いました。

二組の夫婦がね、転勤で大阪と東京に別れちゃって、スワッピングみたいになっちゃうんだよ、フフ、と楽しそうでした。

 

        

当時、平日午後の「○○ワイド」なんていうラジオ番組で、MCが「今日は浮気の虫が騒ぐわあ~~♪っていう奥さま、お電話ください!」なんて呼びかけたら、かなりたくさんの奥さんから電話がかかって、私は呆れちゃって、こんな調子ですよ世の中、と山田さんに言ったら、そんなもんじゃないのと答えていました。

つまり山田さんにとって、不倫願望が大衆に満ち満ちていることは想定内のことで、そのベースの上にどんなドラマを構築するかということが問題だったと思います。

 

 

 

そうやってスタートした「知らない同志」ですが、残念ながら山田さんは、5回目まで書いたところで、別のドラマを書かざるを得なくなります。

 

確か「藍より青く」(テレビ小説)の企画をNHKに出していて、それがOKになったためだったと思います。OKになるかどうかわからない予定で企画書を出していたので、OKが出て慌ててしまった。

 

まあ、当時売れっ子だった花登筐のようなライターなら連続ドラマを同時進行で複数書けたでしょう。この人は大阪東京間の新幹線で何本も原稿を書き、「新幹線作家」と言われ、そのあまりの速さに右手首が原稿にこすれ、血が出たという逸話があります。

でも、山田さんはそんなタイプではなかった。一作一作書き終えないと次には進めなかった。

構想はしっかり固まっていて、5回目まで書いて、さあいよいよこれからだ、という時にバトンタッチしなければならなくなった山田さんは、もう仕方ないないよねと残念そうに言っておられました。

 

 

 

そして助っ人に呼ばれたライターが3人。

は6回から13回まで書いた。

 

それを見た山田さんはブツブツ言ってました。

あれだけ打ち合わせしたのに、ちっとも分かってないとに不満たらたらでした。

 

確かにの脚本は通俗的で、5回目までの緊張、登場人物の心理的つながりが消えていました。単にストーリーがあるのみとしか思えず、下品なキャラクターの饗宴になっていました。安っぽいサスペンスです。それが5、6、7、8、9、10、11、12、13と続きます。

 

 

この頃はすでに映画の脚本コンクールで受賞(名作です。映画化されなかったけど)しており、幾つかドラマも書いていたと思います。ですから一介のライター山田太一に唯唯諾諾と従うのはプライドが許せなかったのかも知れません。

だからは降ろされたのではないかと推測してます。まあ、他の仕事のオファーも来てたみたいですから、スケジュール上の問題かも知れません。

 

次の14回はが書きます。

これがデビュー作と言っていいは、よりはちゃんと書いていると私は思いました。というか相当に大山勝美、山田太一のサジェッションがあったのではと思います。

 

15回目で山田さん復活します。降ろしたから書かざるを得なくなったのか?

 

16回が再びです。

17回がベテラン

18回

 

19回(最終回)は全員のライターの連名です。

ま、たぶん山田さんが書いたと思うけど、この混乱の収集は出来なかったと思えました。

この頃山田さんは、「藍より青く」を書きつつ、小説版の「藍より青く」も進め、映画化も同時進行。クレジットされていないけど、映画脚本への関わりもあった。当時の朝ドラは1年間の長丁場で大変なスケジュール。そんな状態。

 

 

山本陽子の人物像は結局焦点が合わないまま。

杉浦直樹は大阪で、山本陽子を田宮二郎の妻とは知らずに岡惚れしているのだけど、山本陽子は気があるのかないのか、じらしているだけなのか、どう生きていきたいのか、まるでわからない状態で最終回まで行きます。

 

 

 

二組の夫婦がね、転勤で大阪と東京に別れちゃって、スワッピングみたいになっちゃうんだよ、フフ、と楽しそうに語っていた山田さんの思惑は何処まで達成されたのか。

 

揺れる二組の夫婦なら面白いけど、後半は杉浦直樹が悪役っぽくなるので、拮抗がとれていない。しかも山本陽子が田宮二郎の妻と分かるのは最終回という構成は全然良くないと思いました。

終わってみると、田宮二郎と栗原小巻が不倫するかしないかというハラハラどきどきがウリだったのか?と思いました。

 

スーパーの経営をめぐって外国資本のスーパーとの争いがくりひろげられ、これからの小売業の合理化が語られます。田宮二郎(外国勢)と杉浦直樹(日本勢)の対立はどうなるのかと焦点を絞っておいて、最後に双方の会社が合併するなんてオチになってしまう。これはあんまりです。

 

 

でも、このドラマは「高原へいらっしゃい」への良い布石になったと思います。

田宮二郎が妻とうまくいっていなくて失意であるという設定。

従業員の前では明快に理想を語る姿と、逐一それに異論を唱える前田吟というコンビネーション。

肉の目利きが出来る人間として常田富士男が出て来ますが、「高原へいらっしゃい」では仕入れの目利きが出来る人間として出て来る。同じイメージです。

田宮二郎の「高原へいらっしゃい」における支配人のイメージはここで決定づけられたと思います。実に魅力的です。

 

ところが、「高原へいらっしゃい」でも、山田さんのスケジュールはぶつかってしまい、途中を他のライターに頼まざるを得なくなります。

田宮二郎とのコンビはそういう運命だったのかと思ってしまいます(笑)。

 

 

私は「知らない同志」に難癖をつけるためにこの文章を書いているわけではありません。

「山田ドラマ」と一言でくくられるドラマ群も、一つ一つ細かな経緯で出来上がっており、その一例としてご紹介したということです。

このドラマを見ておられない方が、見るチャンスに恵まれれば、も良く書いてると思われるかも知れません。も今や大御所になっておられます。是非とも皆様の目でご確認出来る日がくることを願ってやみません。

 

 

2021/3/18

 

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