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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

シャツの店

「シャツの店」

 

          

1986NHKドラマ6回。

鶴田浩二、八千草薫、平田満他。

 

     

 

 

 

このドラマが作られた頃、四国で「第1回徳島TV祭 テレビドラマの原点を求めて」というイベントが催されました。

山田太一、倉本聰、ジェームス三木氏らのライターを中心に、「山田太一の日」「倉本聰の日」「ジェームス三木の日」と数日にわたって、テレビドラマの現在を考えるというものでした。

         



これは
NHK教育TVで、45分の長さにまとめたものが放送されました。

     

この中で、総合シンポジウム司会の大山勝美さんが、視聴者からの質問状を読み上げるところがあります。

 

質問はこうです。

 

 

 

「今のテレビ界というのは女性に偏重しすぎているのではないか」

 

大山さんは、そうですねという顔になり「何故か中年の男性の方はみんな言う」と同意します。

 

続いてジェームス三木氏がそれについて発言します。

   

「シナリオライターになった時、わたし大山勝美さんの弟子なんですが、35歳の主婦を相手に書けと言われた。大山さんが言ったかどうかは分かりませんが、そのスクールで、大体35歳の主婦が一番テレビを見ているというデーターがある。そこに照準を合わせれば大体問題はないと言われた」



     

そう言われて大山さん苦笑します。オレそんなこと言った?という顔をし、会場の笑いを誘います。

 

 

 

 

そして山田さんの発言になります。

山田さんはこう言います。

         

「今の日本というのは平和で、劇的なドラマを非常に作りにくいんですね、もの凄いどん底の貧乏なんていうのもあんまりないし、そうするとね、どうしても、どっかで虐げられている部分をたくさん持っている人にドラマが一杯あるんですよね、そうすると、どっちかと言えば、異論もあるだろうけど、多くの男性よりは、女性に不満や我慢している部分は多いと思うんですよね、ですからドラマを探して行くと、つい女性に目が行く、そこにドラマが、よりあるという気がしてくるということはあります」

 

と語り、視聴率をとるために、女性にばっかりサービスを向けているわけではないということを言われます。

 

更に。

 

 

「わたくしは最近『シャツの店』というのを作ったのですが、男の側がむしろ虐げられているのではないかと、少し感じだしてですね、そっちを今度書いてみたんですね。そうしたら視聴率も非常に良くてですね、そして中年の男の人から随分手紙を貰いまして、こういうドラマがなかったと言われてですね、やはり、男性の視聴者ももっと開拓しなければ、という風に思いましたけれども」

 

 

と言われました。

 

理由はどうあれ、男性側から言わせれば、昔からドラマは女性偏重だったことは間違いないでしょう。

今でもテレビの視聴者は女性中心という認識で、それを年齢層で更に細分化してターゲットを絞っているようですが、それは置いといて、そのような背景があって、はじめて「シャツの店」のようなドラマが作られたということでしょう。

 

 

でも、この山田さんのシンポジウムでの発言を聞いた時、私の心中は複雑でした。

 

 

何故ならです。

山田さんのドラマでも、やっぱり女性を持ち上げ過ぎじゃないの?と思う事は、結構あって、狭量な男の私としてはひがんでいたのです。

 

例えば、「岸辺のアルバム」の田島謙作は一生懸命働いて家を建てて、多少やばい仕事に手をだしたかも知れないけど、ちゃんと給料を家庭に入れているのに、娘に「お酒飲んで、ただ働いてただけじゃないの!」なんて誹謗されます。

働かないで酒飲んでたら問題だけど、働いて酒飲んでなにが悪いのか、と思っちゃいます。

勿論この発言は、娘というキャラクターが言ってるだけのことなんだけど、それに対する反論はないし、テーマは別のところにあり、そんなことにこだわっているところではないというのは分かりますが、ドラマの主旋律としては、働きお父さんの田島謙作は、その誹謗のまま次のシーンに行ってしまうことになります。

 

 

 

ですから、この時「男の側がむしろ虐げられているのではないかと、少し感じだしてですね、」と山田さんが言いはじめた時は、「え~~?」と思いました。

今までさんざん女性を持ち上げといて(対比として男をおとしめて)、女をいい気にさせといて、今度は男性の視聴者の開拓なんて、それじゃ、マッチポンプじゃないか!と、更にひがんだのでした(笑)。

 

 

 

「シャツの店」は、鶴田浩二最後の出演ドラマになりました。

 

有名な話ですが、NHK出演交渉の難関になったのは、昔、NHKが鶴田浩二の歌「傷だらけの人生」をNGにしたからでした。怒った鶴田浩二はそれ以来NHK出演を断っていた。

それを、ときほぐして、「男たちの旅路」の成功へとつないで行ったのが山田さんたちでした。

 

「男たちの旅路」における司令補役は、晩年の鶴田浩二のイメージを決定したと言えるでしょう。そのキャラクターはカリスマ性があり、お茶の間に浸透しました。私も司令補に叱られたい、などと言う女性ファンを輩出しました。

 

 

しかしそれに反して「シャツの店」の鶴田浩二は、そのキャラクターを覆すもので、女に引っ張りまわされる情けない小市民という役柄でした。鶴田浩二は少し不満を言っていたという話もあります。

 

山田さんは、男らしさを体現出来る鶴田浩二だからこそ、女に引きずり回される姿に落差があり、時代が鮮明に出せる、そう読んだのでしょう。成功です。

劇中では、因縁深い「傷だらけの人生」を歌うシーンもあったりして、山田さん茶目っ気だしてるなあ思いました。酔えばスケベ一辺倒になる姿も描いたりして、あちこちたくらみがちりばめられたドラマでした。

 

狭量な私のひがみはどうでもいいことです。男はいつも虐げられて生きていくのです。

 

「シャツの店」いいドラマです。

 

               

 

2020.12.30

 

 

 

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