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山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

山田ドラマに見出された若者たち

一時期の山田さんは、連続ドラマを書く時は若者を主人公にすることが多く、その若者役に新人俳優をキャスティングされていました。

「それぞれの秋」の小倉一郎。
「岸辺のアルバム」の国広富之。
「早春スケッチブック」の鶴見慎吾。
「沿線地図」の広岡瞬、真行寺君枝。
「想い出づくり」の森昌子、古手川祐子、田中裕子。
「真夜中の匂い」の紺野美沙子、中村久美、岩崎良美。
「ふぞろいの林檎たち」の中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾、手塚理美、石原真理子、中島唱子、高橋ひとみ。
新人たちは懸命に演じ、その作品を代表作とした役者も一人二人ではありません。

中でも「それぞれの秋」「岸辺のアルバム」「早春スケッチブック」「沿線地図」はすべて受験生の役でした。
受験生とは、受験を通して大人の世界に入っていこうとしている存在であり、社会のルールに従いながらも、社会の在り方に疑問や怒りを蓄えているアンビバレンツな存在です。
微妙な立ち位置の受験生が、狂言回し的役割も担って、山田ドラマ独特の語り口が展開していったと思います。
「想い出づくり」「ふぞろいの林檎たち」「真夜中の匂い」の若者も、受験生ではないけど、世界と和解でき得ない若者として登場していますから、同様と思えます。

「それぞれの秋」は1973年「岸辺のアルバム」は1977年「沿線地図」は1979年「早春スケッチブック」「ふぞろいの林檎たち」は1983年「真夜中の匂い」は1984年。

それぞれの時代の若者に光を当てたと思います。
マスコミが、大人が呆れるファッション、言葉遣い、目新しい奇行をフォーカスするのに対し、山田ドラマはそういうものから離れた、平凡な若者を対象としました。さえない、朴訥とした若者たち。

その庶民性はリアルタイムの若者に刺さったと思います。マスコミの風潮に取り残された感一杯だった若者にも一筋の光明を与えたと思います。
「ふぞろい世代」などと、今でも称される人々を輩出させたのはそういう理由でしょう。

山田ドラマでスターとなった役者がいるように、テレビの前の若い視聴者もまた山田太一によって見出されたと言えるのではないでしょうか。
マスコミの通念にとらわれない、新しい世界を与えられたと言えるのではないでしょうか。


2022.10.16
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