忍者ブログ

山田太一の扉

作家山田太一さんの作品群は、私たちに開かれた扉ではないでしょうか。

夕陽をあびて

 

 

「夕陽をあびて」1989NHK土曜ドラマ3回。

八千草薫。大滝秀治。河原崎長一郎。

              

人生100年時代と言われています。

物価の高い日本で老後をおくるより、海外で暮らす方がいいという人たちが一杯いらっしゃいます。タイやフィリピンが移住先として人気のようですが、このドラマが作られた頃はオーストラリアが注目されていました。

 

       

 

でも、歳をとってから異国に行き、生活スタイルを変えるというのは大変なことです。言語や習慣、移住者同士のつきあい、戸惑うことがたくさんあります。

そんな細かな問題が語られるドラマ、やはり山田さんの日本人論と言ってよいでしょう。

 

この作品に関しては、当時、山田さん自身が語っておられます。

Ryu’s  Bar 気ままにいい夜」という深夜番組があって、ゲスト出演されたのですが、MC村上龍にいろいろ語られました。

その時の言葉を少し書き起こします。

 

     

 

山田さんが、映画からテレビに移った動機や「男たちの旅路」の話をし、簡単な履歴紹介があった後の会話です。

 

 

山田「一週間ほど前までオーストラリアに行ってたんですよ。そいで、あの、オーストラリアへ移住なさる方、定年退職なさって、で、そういう方なんかとねー、60人くらいの方にインタビューしてき、お話をいろいろ聞いてきたんですけどね、あの、いろんな側面で面白かったんだけど、なんというのかな、あの、オーストラリア人の価値観ってありますよね」

 

村上「ええ」

 

山田「で、日本人の価値観・・。でね、議論のレベルで通じ合うものは大体分かるんですけれども、あの、まったくわかんない部分ってありますよね」

 

村上「ありますよね」

 

山田「それをね、つまり、お互いにとことん理解するまで付き合おうとかっていうふうにすることは、ボクはどうも間違いじゃないかって」

 

村上「うんうん」

 

山田「つまり、理解しないまんまアクセプトするというのかな、両方で、相手を受け入れるっていうのかな、そういう風なことを考えないとね、世界って、どこでも、人間はひとつなんだと、分かろう分かろうって突き進んでいくってことは、あの、実は傲慢なんであって、相手はわかんない存在なんだ、こっちもわかってもらえない存在なんだ」

 

村上「うん」

 

山田「しかしそのわかんなさを両方で認めてね、あの、ちょっと微笑してるとかね」

 

村上「うんうん」

 

山田「あの、そういうのちょっといいでしょう?」

 

村上「うん」

 

山田「そういう感じをねえ」

 

村上「うん」

 

山田「すごく感じます」

 

 

―(略)

 

 

山田「さっきオーストラリアに行ったって言いましたけど、ものすごくいい天気でね、雲一つない日が毎日続いてね(略)裏町行ったって綺麗でね」

 

村上「山田さんって嫌いなんじゃないですか」

 

山田「え?綺麗なとこが?」

 

村上「ええ」

 

山田「う~~ん・・なんか欲しくなんのね」

 

村上「闇の部分が欲しいんでしょう」

 

山田「うん」

 

村上「(頷く)」

 

山田「それは、あのデビット・リンチの、あの、なんてったっけ」

 

村上「ブルーベルベット」

 

山田「うん。あれはそうでしょう。綺麗、綺麗、ペンキ塗って綺麗ってところの闇でしょう」

 

村上「ええ」

 

山田「で、日本の闇も僕はそうだと思うんですね。で、ブルーベルベットの闇は分かりのいい闇だったけど、ああいう分かりの良さがないと思うんですよ、今の日本の闇はね」

 

村上「うんうん」

 

山田「だから、笑ったまんま固まったみたいな、そんな闇」

 

村上「怖いですね」

 

山田「ええ、怖いですよ」

 

村上「そういう人いますもんね」

 

山田「(笑って)そういう世界で成熟した顔になるのは大変ですよね」

 

 

―(略)

 

 

山田「日本はねえ、土地がとにかく狭いでしょう、土地の広さに関してはね、人工との比率に関して、対極にある国ですよね、まあ例えば300坪の土地で、4ベッドルームがあって、居間が12畳くらいあって、プレイルームがあって、裏庭、表庭があって、1300万くらいでしょうね、そりゃあ、日本から行けば感激しますよ、一応はね」

 

村上「ええ、ええ」

 

山田「そりゃあ、無理もないと思う。ボクも感動しました。え?これ1300万ですかって」

 

村上「でもねえ、ロケーションだけで、人間住むわけじゃないでしょう?やっぱり、ご飯が美味しいとかね。よく最近お前は名古屋に行くなとかって言われたら、名古屋に女がいたりするとか、そういう時あるでしょう?そういうなんかねえ、あの~、人間関係と社会関係ってあると思うんですね、で、日本って、あまりにも、そういう環境悪過ぎるから、オーストラリアみたいな、あんな面白くないところにあこがれちゃうんですかねえ、面白くもなんともないでしょう?」

 

山田「あのねえ、ボクはこれからドラマを書くんですよ、それについて、軽軽にうんと言えないけれどね(笑う)」

 

村上「そういうねえ、あの、面白くなさを逆手にとると凄く面白いですけどね」

 

山田「(笑う)」

(スタジオも爆笑)

 

山田「ものすごくね、ボクはいろんなドラマがあると思いました。これは大変な、日本人にとって大変なテーマだと思いました」

 

村上「それはそうでしょうねえ。そうです、そうです」

 

山田「とにかく陽光燦燦としてねえ、物価は安く、みんないい人で、あの、そこで、つまり、老人たちが生きていくっていうのはねえ、それは凄い・・」

 

村上「それは凄惨なドラマになりそうですね」

 

(二人笑う)

 

村上「オーストラリアって日本にとってね、こう、試金石っていうかあ」

 

山田「そうそう、あの、非常に試される世界ですね。そいで、そこでつまり言葉を覚えようとして、で、あの国がやっぱり偉いと思ったのは、移民の人に1年間ぐらい、ただで英語を教えるわけですよねえ、そこへ、あの、お年寄りが行くわけですねえ、ベトナムの人だとか、もう中国の人だとか、いろんな人が来てるわけですよね、みんな英語を覚えようとしている、で、そういうところでコミュニケィト出来てくるわけですよね、で、そういうことはねえ、ボクはなにものかではあるんじゃないかと思うんですよ」

 

村上「それはそうですね」

 

山田「で、その中で例えば、あの、みんな定年後ですから、ある程度記憶がなくなっている部分もあったりして、日本から行きますでしょう、そうすると、非常に、ある意味ではハードなところに放り込まれるわけですね、英語もろくに出来ないまま行くわけですから、そうすっとねえ、奥さんの方がうまくなっていってしまう。どんどんね。で、交際もぱっぱっぱとやる。で、亭主のほうはダメですからねえ」

 

村上「囲碁とか将棋ないですからね」

 

山田「(笑って)そうそう、一生懸命やってんだけども、あ、こういう夫婦の、なんていうのかなあ、暮らしもあるなあって」

 

村上「それは、ドラマ一杯できますねえ」

 

山田「あのねえ、この局じゃないですけれども、ええ、書きますので」

 

村上「すっごく楽しみですねえ」

 

山田「まあ、見て下さい(笑う)」

 

村上「僕もオーストラリアで何か書こうと思ったんですよ、僕の場合は、そういうあれじゃなくて、ロブスターとか、そういうのが好きで、で、行ったんだけど、何にも面白いことがなくて、毎日中華料理店行って、海老たべてばっかり、そうしてたら、段々甲殻類になったって、話を考えたんですよ」

 

山田「(笑う)」

 

(スタジオも爆笑)

 

村上「いや、本当に淋しいですよ。何もないでしょう?どうすればいいんだって感じでね。何かこう闇の部分っていうのは、夜になると、そこがパーっと灯りが点いて、なんとなく違う自分になれて、そういうの一杯あるんだけど、そういうのまったくないから、だから淋しいんだと思うんですよ、オーストラリアの人って」

 

山田「そう、あの、自然がね、ちょっと放っとくと、ワーって押し寄せて来ちゃいますでしょう、カルグーリっていう近郊の街に行ったんですよ。本当に、1900年頃から街が変わってないっていうか、その頃ゴールドラッシュだったんですよ、それで寂れて・・、そうすっとねえ、すぐ、自然なんですよねえ。そうして・・そくそくと夜になると、淋しーいって感じがしてねえ・・」

 

村上「まあ、昔のアメリカの西部とかね、あったのかも知れませんけど、西部なんかはいずれ開拓の波が押し寄せて、例えばロサンゼルスが出来るとかっていうのはあるのかも知んないけど、オーストラリアっていうのは、本当に淋しかったですね」

 

山田「その変わり、日本が押し寄せてる(笑う)」

 

村上「いや、本当にね、押し寄せてるかも知れないですよ。ハイマン島ってとこ行ったんですけど、日本の新婚の群れ。あれはなんですかね?」

 

山田「(ニヤリとして)なんですかね」

 

村上「団体旅行で新婚旅行いって面白いんですかねえ?」

 

山田「ただね、ボクもわりとそういう風に思うタイプなんですけれども、なんていうかなあ、ボクはある結婚式に、わりと最近出たんですよ。そうすると、大安でしたんでね、もの凄いね、どんどん花嫁花婿がガーっといるわけですよ。そうすっとねえ、我々出席した人間というのは、もうどんどんスケジュールで回っていることは、よく見えるし、だからどうってことはないわけですよ。ね、もう流れ作業じゃないですか、こんなとこで結婚式って、何が面白いってんだいうくらい、侮辱を感じるような」

 

村上「うんうん」

 

山田「ところが三々九度をして、花嫁さんがこっちをふっと振り返った時、泣いてたのね、僕その時びっくりした、凄く感動した、あ、そうなんだ、こういう風に、あらゆる手続きが、バカにされるような手続きでいたってね、本人はね、かけがいのないとか思って、泣くエネルギーがあるんですね、そうするとね、団体で行って、外で見てると異様な感じがしますでしょう」

 

村上「みんな親戚かと思いましたよ(笑)全部違うカップルなんですけどね」

山田「あのねえ、僕、個人的にはねえ、非常にある嫌悪感あります。だけどねえ、あのねえ、そんなに一様じゃないんですよ」

 

村上「そうなんですよね」

 

山田「あの中にもねえ、いろいろと」

 

村上「そうなんですよね。言葉を翻すようですけど、僕もね、そのハイマン島でね、なんでこんな日本の新婚ばかりと思って、もう、ずーっと毒づいてたんですよ、でー、テニスをしに行ってねえ、カメラマンがセットレス下手だったんですね、お前もうちょっとうまくやれとか言って、日本人のカップルが来て、新婚だってんで、男の子も凄くうまかったんですよね(と、さしてつながらない話を延々とした後)新婚のカップル5、6組でもドラマになりますよねえ」

 

山田「あのねえ、一括してあいつら俗物だみたいなね、あの、一括出来ないんですよ、立ち入るとねえ、面白いってのは傲慢かも分からないけど、凄くいろんな世界があるんですよ、でも、もの凄くお金を貯めてね、で、時給600円くらいで、貯めてためてやっとそういう団体の切符買った人だっているわけですよねえ、そういう人たちにとってはねえ、大勢で行くなんてことはね、ものともしない、二人だけなんですよ、そういうねえ、強さっていうのかな、で、あのー、そこまで慮る必要はないと思うけど」

 

村上「それ、山田太一の世界じゃないですか、そういうすごく一生懸命貯めていった人と、なんか」

 

山田「(笑って)あなたね」

 

村上「毛皮かなんかパッと売って行った人とか5、6組いて、オーストラリアの、で、飛行機の中から始まって」

 

山田「金貯めればいいってものでもないですけどね」

 

村上「(笑う)」

 

山田「(笑う)」

(まとまらないままトーク終了)

 

 

 

 

当時の時代状況が少しは感じられましたでしょうか。

そして山田さんが現実をどう感じ取っているかという部分も。

老後のプランと、オーストラリア移住というプランがセットでやってきたバブル期の日本。

山田さんのアンテナが鋭敏にそれらをとらえたドラマだと思います。

 

このトーク番組、Barのカウンターがあって、その止まり木に村上龍と山田さんが座って喋るという体裁ですが、村上龍が凄い勢いで煙草を吸うんですね。

まあ、酒場という設定なんですからいいんですけど、それを見て、ある女性山田ファンがお怒りでした。

「山田さんは煙草をお吸いにならないのに、プカプカ、プカプカ、許せない!!勿論山田さんの許可はとったんだろうけど、山田さんはあのお人柄で、どうぞとおっしゃったんだろうけど、失礼だ村上龍!!!」と激怒されていました。

女性山田ファン恐るべしデス。

 

 

2020.11.23

 

 

 

 

PR